第二東京弁護士会の副会長を終えて

2025.11.11

弁護士 秋野 卓生(あきの・たくお) 50期

     

1 全友会常任幹事としての使命感

 私は、平成29年から7年間、全友会常任幹事を務め、副会長に就任する前年の令和5年は常任幹事の中で一番期が上となってしまい、必然的に令和6年度副会長候補者を探す立場となっていました。
 全友会から筆頭副会長候補を出してほしいという要請があり、何人もの先生方にお願いをして回りましたが、芳しいお返事が頂けず、鈴木英之先生と一緒に悩みに悩んでおりました。
 9月のある日、水上洋先生に相談をしたところ、「秋野さんがやるべきだと思います。」という予想もしていなかった回答が来ました。しかし、このお言葉を頂いた事で私も覚悟を決めました。
 とにかく10月の人権大会ギリギリまで引き続き全友会内で候補者を探して、誰も候補者が出ない場合には、私が副会長職を務めようと決意を固めました。そして、人権大会の数日前というギリギリのタイミングに開催された常任幹事会で、私が立候補の決意を述べ、賛同を頂きました。その時は、全友会常任幹事としての使命感からの立候補の決意でした。
 私は、慶應義塾大学法科大学院で法曹倫理の教鞭をとった経験もあり、法曹倫理を学問として極めたいという希望がありました。平成29年から6年間、綱紀委員会委員を務め(うち5年間は調査班の班長を務めました)、令和6年からは懲戒委員会の委員に就任することについて内諾を頂いていたところでした。理事者から独立した委員会で活動することを所望していた私が、理事者に就任するなど、自分自身、全く予測していませんでしたので、副会長に就任することを決めてから令和6年4月に就任するまでの間、二弁総会資料を過去5年分確認したり、令和4年度から5年度の常議員会議事録を全て謄写して読破したり、東弁法友会政策要領を読むなど、自分なりに予習をして副会長就任に臨むことになりました。

2 令和6年度筆頭副会長として

 令和6年度役員は、会長を日下部真治先生、副会長を湯浅紀佳先生、栗林武史先生、永滋康先生、池田理明先生、友野直子先生、そして私、監事を日野義英先生、横山聡先生とするメンバーでした。
 日下部会長は、二弁のために真摯に向き合う誠実且つ聡明な方で、日下部会長のもとで筆頭副会長を務めることができたことに感謝しております。日下部会長からは、「二弁のために」何をなすべきかという視点を持ち、様々な課題へ取り組む際の姿勢や方向性など、ありとあらゆることを教えていただきました。
 副会長の先生方は、皆、優秀且つ人格的にも素晴らしい方々ばかりで、毎日理事者室に通うのが本当に楽しく、充実した日々でした。
 私は、筆頭副会長として、会長の意向を常に把握しながら、意欲的で能力のある副会長に自由に活躍してもらいつつ、日常業務の全体をみて危険な兆候を把握し対応することに力を注ぎました。
 日下部会長のご意向をいつも確認すること、問題点・懸念点を察知して委員会と理事者との調整役を買って出ることを心がけ、対応しました。
 必然的に、私の携帯電話には複数の委員会の委員長の携帯電話番号が登録され、理事者と委員会の考えをすりあわせなければならない場面では、即、電話をし、方向性をすり合わせる等、迅速な対応を心がけました。

 

3 未来の二弁のための取り組み

 日下部執行部は、後述のとおり、システムリプレースメントの実現と共に会務の効率化・実効化を果たすための会則・規則類の改正や、政策協議会の設置のための環境整備など、未来の二弁の発展につながる取組みに果敢に挑戦したことが特徴的でした。
 以下、重要課題への取組をご報告します。

4 基幹システムリプレースメントと諸会務のIT化

 令和5年度から継続していた当会の基幹システムのリプレースメントは、令和6年度中に要件定義の段階を終え、開発段階に移行しました。開発業者とコンサルティング業者へ支払う報酬額の増大、対応する事務局職員の負担増など、課題は尽きませんでした。
 日下部執行部内部でも、システムリプレースメント担当副会長によるリーダーシップが発揮される中、労務担当副会長が事務局職員の不安を受け止め、理事者間で対策を協議しながら「何としても成功させる!」という熱い想いで取り組みました。
 システムリプレースメントの実現と共に会務の効率化・実効化を果たすことを目指し、総会及び役員等選挙のIT化、事務局職員の業務評価ルールの見直しや検討を進めました。上記の基幹システムリプレースメントが実現するのと同時期に、この成果が日の目を見ることとなります。
 ITを活用した会員意見の吸上げ策として、当会会員専用サイトに意見提供フォームを設置し、トップページにボタン/タグを設けました。意見提供フォームに誘導する機会として、全会員へメール送信する場面を想定し、文案を作成するなどの準備を進めました。

5 法律相談センターの在り方の検討

 当会が単独又は東京弁護士会及び第一東京弁護士会と共同で運営する法律相談センターの在り方の検討を進めました。特に、東京三弁護士会多摩支部が運営する町田及び八王子の各法律相談センターの運営見直しは喫緊の課題であったところ、抜本的な見直しの方針が固まったことは大きな成果でした。また、今後、箱もの法律相談センターの在り方を総合的に検討するプロジェクト・チームを会内で立ち上げることとしました。非常に根本的な問題を検討することになりますので、検討結果が報告されるのは令和7年度の後半となる見込みです。
 

6 会務のスリム化と会務を担う人的資源の拡充

 会員数の増加に伴い会務が増大していることにより、会務を担う会員が不足するとともに、事務局の負担も重くなっています。そこで、日下部執行部では、会務のスリム化のため、委員会及びワーキング・グループの統廃合等を、また、会務を担う人的資源の拡充のため、司法修習個別指導担当弁護士の選出基準の緩和、市民相談担当員の増員等に取り組みました。他方で、一部会員の任意の協力で会務を回すことの限界や、事務局スペースに収容できる職員数の制約がもたらす個々の職員の負担増は、いずれも根深い問題であることがより明らかになりました。

7 嘱託弁護士報酬制度の見直し

 当会では、有償の嘱託弁護士に対し、一部を除き月額15万円の定額報酬を支払ってきましたが(調査室長、広報室長等は加算あり)、その報酬総額が高額であり、会の財務に与える影響が大きいこと、嘱託弁護士間における執務時間の不均衡を是正すべきことから、嘱託報酬制度の見直しの議論が進められてきました。
 令和5年度に立ち上げられた嘱託報酬制度検討プロジェクト・チームを引き継ぎ、その検討結果をもとに、それまで検討されてきた時間制報酬を従量制報酬に修正し、常議員会にて承認をいただき、令和7年4月1日より新たな報酬制度が施行されました。

 

8 国際ロマンス詐欺等被害者に対する業務広告と非弁活動への対策

 令和6年度は、国際ロマンス詐欺等の被害者を不当に誘引する弁護士業務広告が問題となりました。こうした業務広告は、それ自体が日弁連の「弁護士等の業務広告に関する規程」に違反するのみならず、その背後には、非弁業者が活動していることも多いため、看過することはできません。日下部執行部でも、市民に対し、そうした業務広告への注意喚起に努めるとともに、多数の被害者から案件を受任する弁護士が異常な件数の弁護士会照会の申出をする傾向があることから、弁護士会照会申出の適正化策に腐心しました。また、非弁提携が疑われる事案については、会立件による懲戒請求のほか、捜査機関への情報提供等も進めました。

9 中長期的観点からの政策協議組織

 1年ごとに執行部が交代するという性質上、当会の会務においても、中長期的観点から調査・研究することが困難な政策課題があるとの認識の下、日下部執行部では、会長の諮問機関として政策協議会を設置するため、その設置要綱の作成・承認等の環境整備を進めました。その後、令和7年4月に、同年度の福島正義会長は、同設置要綱に基づき政策協議会の設置を決定されました。この政策協議会による調査・研究が、当会の持続的発展に寄与することが期待されています。

 

10 副会長のススメ

 私は副会長職に就くまでは、弁護士として依頼者のため、社会のために仕事をしているつもりであったのですが、仕事の喜びは私的な喜び(大きな事件を受任でき、匠総合法律事務所の成長を実感!とか、大きな会社が法律顧問契約の依頼をしてきてくれて嬉しい!等)ばかりであった気がします。
 これに対し、弁護士会務は、現在の二弁会員のため、将来の二弁会員のために頑張るという私的な喜びとは縁が切れた公的な仕事であり、公的な役割を果たすために全力を尽くすことのすがすがしさを感じることができます。
 会務に全力で取り組む中で、思考も成長させることが出来ました。弁護士会の研修についても以前は、自分の仕事に関連する研修や大学における講義に役に立つ研修にしか興味がなかったのですが、副会長職を経験してからは、むしろ自分の専門分野とは関係のない研修に興味がわくようになりました。色々な分野で二弁会員の先生方が情熱を燃やして頑張っていらっしゃる姿に学ばせて頂き、思考も成長したのだと思います。
 普段の弁護士業務をしているだけでは伸ばすことの出来ない能力を伸ばすことができること。これが副会長職の最大の魅力だと思います。
 全友会の先生方にも副会長職に興味を持って頂き、然るべき時期が来ましたら、是非、副会長職を務めて頂きたいと思います。

 

11 今後の目標

 私が副会長の仕事をこなしていくにあたって、二弁職員の皆さんの支えが非常に有り難いものでした。職員の皆さんの中には、長きにわたり二弁にいらっしゃる方も数多く、私は特に頼らせていただきました。
 副会長職が終わった今後ですが、二弁を支える職員の皆さんにとってやりがいのある職場作りをしていくことに力を注いでいきたいと思い、今後、総務委員会委員としての活動を継続していきたいと考えております。
 また、筆頭副会長として懲戒委員会担当副会長を務めた経験を活かすべく、日弁連「弁護士職務の適正化に関する委員会」委員に就任しましたので、こちらの活動も頑張りたいと思います。
 また、現在、副会長時代の担当委員会である弁護士推薦委員会司法研修所教官推薦小委員会の小委員長職にあります。この委員会にて教官が修習生に指導することのやりがいについてのお話しも多く聞かせて頂き、教育の現場に入ることに強い興味を持つことが出来ました。
 現在務めております司法試験考査委員(民法)の任期が終了いたしましたら、法科大学院で教鞭をとり、良き法曹を生み出す活動もやってみたいな、と強く思っております。
 副会長職にあったからこそ、次の目標を見いだすことが出来ました。改めて副会長就任にご推薦してくださった全友会の先生方に感謝申し上げます。

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