フリーランス・トラブル110番の取り組み

2025.11.11

弁護士 川辺 雄太(かわべ・ゆうた) 68期

1 フリーランス・トラブル110番設立の経緯

 近年、個人の働き方が多様化し、雇用関係によらないさまざまな働き方が増えている。これらの方は、フリーランス、個人事業主、クラウドワーカーなど(以下、本稿においては「フリーランス」と呼称する。)と呼ばれ、労働基準法上の労働者ではないとされている。
 労働者には労働基準法が適用される一方、フリーランスには原則として労働基準法が適用されない。労災保険に加入できず、休業補償の対象にもならない。
 あいまいな契約、ハラスメント、報酬の未払いなど、フリーランスの約半数が仕事上のトラブルを抱えているといわれている。そして、多くの方々が「どうすればいいかわからない」「評判が悪くなる」などの理由から泣き寝入りしているという現実がある。
 このように弱い立場に置かれやすいフリーランスが相談できる場所が必要である。厚生労働省が開催した「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」中間整理(令和元年6月28日)においても、紛争が生じた際の相談窓口の整備が特に優先的に取り組むべき課題と整理された。
 中間整理を受け、令和2年度、厚生労働省において、フリーランスの方のための相談窓口を整備することになり、事業を受託し運営する団体を募集することになった。応募期間はわずか3週間弱と短期間であったが、わずかな期間であるにもかかわらず、仲裁センターとも連携し、当時の執行部の迅速かつ柔軟な対応もあり、当会として応募し、事業を受託するに至った。まさに「魁の二弁」である。応募に際し、相談窓口(電話等の相談ブースや事務局のスペース)の設置場所をどこにするかという大きな問題があったが、当会のいわゆる公設事務所である弁護士法人東京フロンティア基金法律事務所(以下「フロンティア事務所」という。)内の一部を使用することになり、短期間での応募に至った。その後、労働問題検討委員会の山田康成弁護士が中心となり、厚生労働省との折衝が重ねられた。
 令和2年11月、フリーランス・トラブル110番が設置され、厚生労働省より委託を受け、厚生労働省のほか、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁と連携して運営を担うこととなった。設立当初から現在まで、山田康成弁護士が統括責任者として第二東京弁護士会から嘱託を受け、ほぼ毎日、相談窓口に顔を出して運営を担っている。

2 フリーランス・トラブル110番とは

 フリーランス・トラブル110番は、相談から解決まで弁護士がワンストップでサポートするサービスである。本事業の相談対応については、労働局・労働基準監督署に設置されている総合労働相談コーナーのフリーランス版がイメージされている。また、後述の和解あっせんについては、労働局の紛争調整委員会によるあっせんのフリーランス版がイメージされている。
 相談対象となるのは、仕事の委託を受けたフリーランスと発注事業者等とのトラブルである。パワハラなどの不法行為も相談対象となるが、発注事業者以外(例えば消費者や仕入先)との取引については相談対象外である。
 業務を委託されている事業者で従業員を使用していない方であれば相談が可能であり、法人化していても、フリーランス以外に役員も従業員もいない、いわゆる「一人会社」の場合は相談対象となる。
 フリーランス・トラブル110番では、多くの方法で相談を受け付けている。電話相談とメール相談がほとんどであるが、必要に応じて対面相談やオンライン相談も可能である。完全匿名での相談も受けている。
 ただし、厚生労働省から事業を受注しているという形になるので、フリーランス・トラブル110番の相談担当弁護士が直接フリーランスの代理人になったり、相手方と直接交渉することまではできず、代理人となる弁護士を紹介することもできない。法テラスや弁護士会を紹介することもあるが、ウェブサイトを検索するなどして、具体的な所在地や連絡先を教示するようにしている。
 本稿執筆現在、電話相談、対面相談、オンライン相談は予約制である。電話相談は、フリーダイヤルなので、通話料無料である。メール相談は、お問い合わせフォームから随時受け付けており、通常2~3営業日以内には返信がなされている。具体的な事情をお聞きしないとわからないと答えるだけではなく、おそらくこういうことが聞きたいのだろうと想像力を働かせて、できる限り解決の糸口となるような回答を心掛けている。例えば、回答者において具体的に知りたい情報のポイントを明記して、もう少し情報を送ってくださいと返信している。 オール弁護士で相談に対応しているので、個別の事案に応じた具体的なアドバイスが受けられる。契約書や請求書の作成、網羅的なリーガルチェックまでは対象外であるが、法的内容の助言だけではなく、例えば、紛争解決のための適切な手続きの紹介、具体的な交渉方法や、通知書や申立書の具体的な起案例など、踏み込んだ助言を行うようにしている。
 また、令和6年11月1日にいわゆるフリーランス法が施行され、事業者の行為がフリーランス法違反と考えられる場合、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省へ申出をすることができるようになったところ、フリーランス・トラブル110番では、具体的な申出の方法までも助言している。
 なお、相談記録は、相談者、回答者の個人情報を隠した上で厚生労働省に提出されており、フリーランス法制定のための基礎データ(立法事実)となった。 「自分の言い分が正しいのか知りたい」「契約書の条項でわからないことがある」といった相談内容も多く、相談した段階でトラブルが解決するケースも多いが、残念ながら相談ではトラブルが解決しないケースもある。 フリーランス・トラブル110番は、無料相談で事態が解決しない場合の手段についても用意されている。それが、弁護士による和解あっせんである。
 和解あっせんは、あっせん人弁護士の指揮の下、当事者間で話し合いを行う非公開の手続きであり、当会仲裁センターが所管している。仲裁センターは、民事上のトラブルを簡単な手続(「和解あっせん手続」もしくは「仲裁手続」)で、早く、安く、公正に解決することを目的として、当会が全国の弁護士会に先がけて設立した裁判外紛争解決機関(Alternative Dispute Resolution,ADR)である。入会後10年以上の経験のある弁護士等があっせん人候補者名簿に登録することができ、名簿の中から仲裁センターがあっせん人を選任する。あっせん人は、中立的な立場でそれぞれの当事者の言い分を聞き、双方の立場を理解したうえで落とし所を探るなどして、話し合いをまとめる手伝いをする。あっせん人の提案する和解案に納得ができない場合は「和解をしない」選択をすることも可能である。その場合は裁判など、他の方法による解決を図ることになる。
 当事者の希望により、あっせん人が交互に当事者を呼び出し、ヒアリングをする形で行うことも可能である。そのため、相手方と直接話し合うのが怖い人も利用しやすいというメリットがある。また、電話やWEB会議での手続きも可能であり、全国どこにいても利用が可能である。
 通常、和解あっせんを利用するためには、申立手数料の他、期日手数料や成立手数料の負担が必要となる。しかし、フリーランス案件では、厚生労働省から委託費を受けているので、フリーランスは、申立手数料や期日手数料、成立手数料を負担せず、無料で和解あっせん手続きを利用することができる。
 フリーランス側からみれば、相談から解決まで無料で弁護士による具体的な助力を受けられるので、非常に魅力的なサービスであるといえる。

3 当職の関わり

 前述のとおり、設立当初、フリーランス・トラブル110番の相談窓口(電話等の相談ブースや事務局のスペース)は、フロンティア事務所内に所在していた。当職は、弁護士登録後、フロンティア事務所で養成を受け、いわゆる司法過疎地に4年間赴任し、赴任を終えた令和4年12月にフロンティア事務所に戻ってきた弁護士であるが、当時、フリーランス・トラブル110番の相談窓口がフロンティア事務所内に所在していたご縁で、令和6年5月末日まで、当会から和解あっせん責任者として嘱託を受け、弁護士として、和解あっせんを申し立てたフリーランスに対し、申立書の記載方法や、証拠の資料の確認のほか、和解あっせんの進行方法等の周知を図るなどして、手続きを支援していた。
 相談件数の増加等により、フリーランス・トラブル110番の相談窓口は、令和6年6月1日から弁護士会館に移設されたが、当時のご縁から、現在も相談員弁護士として稼働させていただいている。また、和解あっせん責任者であったご縁で、あっせん人補助者として名簿登録させていただくことになり、本稿執筆時現在まであっせん人補助者として6件の和解あっせん手続きを経験した。

4 フリーランス・トラブル110番の体制

 フリーランス・トラブル110番では、本稿執筆現在、平日9時30分から12時、12時から14時30分、14時30分から16時30分までの合計3回の相談枠に各回4人の相談員弁護士が待機している。事務補助員は常時6名おり、電話相談を希望する方がフリーランス・トラブル110番の電話番号に電話すると、まず事務補助員が相談内容の聞き取りを行い、各相談枠への予約受付をしている。相談員弁護士は、相談枠の時間の中で、電話相談を行いつつ、隙間の時間や余った時間でメール相談への回答を行う。なお、令和5年6月からは、相談員の一部に東京弁護士会、第一東京弁護士会の会員も加わっている。
 フリーランス・トラブル・110番には、全国各地から日夜、様々な相談が寄せられている。そして、設立以降、相談件数が増加し続けている。
 令和6年度は、合計12323件の相談が寄せられた。内訳は、電話相談6255件、メール相談5961件、対面相談107件である。もはや、当会以外が本事業を受注するのは困難とも思える規模になっており、フリーランス法制定の基礎データ(立法事実)となるなど、社会を動かす原動力となっている。
 これらはひとえに山田康成弁護士や事務補助員、相談員弁護士がフリーランスのニーズに的確に応え続けた努力と研鑽の賜物であるといえるが、一方で、「魁の二弁」であるからこそ受注できた事業であったことも事実であろう。
 弁護士の使命は人権擁護と社会正義の実現であるが、先駆的な取り組みを続けている当会で、若手として日々様々な活動に関わることができ、光栄である。

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