弁護士 安齋 由紀(あんざい・ゆき) 72期
1 はじめに
私は、2020年4月以降、第二東京弁護士会(以下「二弁」という。)の刑事法制・刑事被拘禁者の権利に関する委員会(以下「拘禁委員会」という。)に所属しています。2024年4月から同委員会委員長です。
拘禁委員会は、主に、刑事施設内の人権状況を調査し、法務省矯正局等との折衝などを通して、刑事被拘禁者の尊厳を護り、日本の刑事施設を、国際水準に照らして適切な施設へと改善することを目指して活動しています。
私が拘禁委員会に参加したのは、愛知県弁護士会がよりそい弁護士制度を導入した直後であり、二弁にも同様の仕組みを取り入れたいとして、検討が始まった時期でした。
これまで、弁護人等が手弁当で行なっていた入口支援(被疑者・被告人等を矯正施設ではなく福祉手続等につなぐための支援活動等)・出口支援(矯正施設の出所者を適切な社会資源につなげる等の活動)を、弁護士会が支える仕組みができれば、より多くの刑事被拘禁者等が、社会復帰や更生のために弁護士を頼れるようになるのではないかと期待し、制度設計の末端に関わらせていただきました。
2022年に二弁のよりそい弁護士制度が始動し、徐々に活用が広まりつつあります。しかし、まだ、制度を知らないという会員も多いと思います。
より多くの会員に制度を知ってもらい、活用してもらうために、以下、紹介させていただきます。
2 よりそい弁護士制度とは
⑴ 制度ができるまで
当番弁護、あるいは国選弁護で担当した被疑者・被告人が社会復帰や更生するためには、身柄解放後も弁護士によるサポートが必要だと感じながら、弁護人でなくなった後は、報酬も見込めないし、立場もあやふやだし、思い切った支援ができないと、悩んだ経験がある弁護士も多いと思います。
よりそい弁護士制度は、このような弁護人、あるいは元弁護人たちの悩みに端を発して、整備された制度です。
よりそい弁護士制度の先駆けは、2016年に兵庫県弁護士会が始めた取り組みでした。もともと国選弁護人がボランティアで行なっていた、罪を犯した障害者や高齢者の弁護活動後の社会復帰支援に対して、弁護士会等が費用を支払う仕組みが整備されました。
その後、愛知県(2019年)、札幌、(2021年)、広島県、第二東京(2022年)、山梨県(2023年)福岡県、第一東京(2024年)、東京(2025年)と、よりそい弁護士制度を導入する単位会が増えました。
二弁は、全国5例目の導入でした。
⑵ 二弁のよりそい弁護士制度の概要
二弁のよりそい弁護士制度は「罪に問われた人の円滑な社会復帰を促進し、再犯の防止等の推進に関する法律第3条の基本理念に沿って再犯の防止等に寄与するために弁護士会員が行う相談及び支援活動に対し、本会〔筆者注:二弁〕が援助を行う制度(第二東京弁護士会よりそい弁護士規則(以下「規則」という。)第1条)」です。
二弁のよりそい弁護士制度の運営は、拘禁委員会が行っています(規則第4条)。
よりそい弁護活動には、①よりそい相談と、②よりそい支援活動の二種類があります。
①よりそい相談は、対象者の社会復帰又は再犯防止のために行う面接相談(規則第3条1項)です。対象者は、都内の刑事施設、及び少年院に収容されている者、又はされていた者(規則第2条1号イ・ウ)であって資力が50万円以下の者です。対象者本人、収容中の施設職員、更生保護関係の地方公共団体職員、又は親族等関係者が申し込むことができます(規則第7条1~4号)。ただし、本人以外が申し込む場合には、本人の同意が必要です。
②よりそい支援活動は、対象者の社会復帰または再犯防止のために行う支援活動(規則第3条2~4号)です。対象者は、逮捕、勾留、鑑定留置、観護措置により都内の施設に収容されている者、及びいた者(規則第2条1号ア)、都内の刑事施設又は少年院に収容されている者、及びいた者(同号イ・ウ)、並びに刑事施設又は少年院から出所又は出院後に都内に帰住した者又は帰住予定である者(同条2号)であって、資力が50万円以下の者です。
よりそい支援活動は、本人が申し込むことはできません。弁護人又は付添人、及び元弁護人又は元付添人(規則8条1項1・2号、2項1号。以下「弁護人ら」という。)、よりそい相談を担当した弁護士(同条2項2号)、対象者を収容中の施設職員(同項3号)、並びに地方公共団体等、更生保護関係の団体職員(同項4号)が、申し込むことができます。これは、本人の事情を熟知した弁護士等が、本人の希望を把握したうえで、事案に即して、どのような支援活動が適当であるかを判断して、申請をするのが合理的だと考えられるからです。なお、よりそい支援活動の申込みは、本人以外が行うことが前提となっているため、必ず、本人の同意を得て行う必要があります。
⑶ 援助金について
よりそい相談に応じた弁護士には、相談一回当たり1万円+消費税相当額の援助金が支払われます(規則第12条1項)。
よりそい支援活動を行った弁護士には、一回当たり、活動時間が4時間未満の場合は1万円+消費税相当額、4時間以上の場合は2万円+消費税相当額の援助金が支払われます(規則第12条2項)。
このほかに、事務所所在地と活動地域が共に23区内、又は多摩地域内の場合には1,000円、いずれかが23区内で他方が多摩地域内の場合は2,000円、活動地域が都外の場合は3,000円の交通費を支払うことができるとされています(規則第12条3項)。
援助金と交通費の合計は、消費税相当額を除いて15万円が上限とされています(規則12条5項)。
ところで、現在の規則では、よりそい支援活動は、弁護士が事務所外に出かけて行うことが想定されています。しかし、実際には、関係者との電話での協議、メールの送信、書面の作成及び郵便発送等、弁護士が事務所内で行う活動や実費の負担が想定されるにもかかわらず、これらに対する援助の規定が設けられていません。
そこで、現在、このような事務所内活動や郵券代等の実費に充てるため、基礎報酬1万円を支払うことができるようにする規則改定を検討しています。但し、基礎報酬は、上限15万円に含まれる予定なので、支払われる援助金の上限額は変わらない予定です。
⑷ よりそい弁護士の指定
弁護人らから、よりそい支援申込があった場合、「相当と認める」ときは、当該弁護士会員をよりそい弁護士に指定することができます(規則9条2項)。通常は、弁護活動を通じて、対象者の特性や環境を最も熟知している弁護人らは、よりそい支援活動を行うのに最も適した弁護士であると考えられますから「相当と認める」ことができると考えられます。
国選弁護人が行う活動であっても、主に社会復帰のための活動であって、国選弁護報酬の対象とならないようなものについては、よりそい弁護士制度の対象になる場合があると考えられます。
よりそい相談申込や、弁護士以外からのよりそい支援活動申込があった場合は、よりそい弁護士名簿に登録された弁護士の中から、担当者を決めて派遣をします。
よりそい弁護士名簿に登録されるためには、よりそい弁護士研修を受講する必要があります。研修の開催は年に1回です。2025年度の研修は、2026年3月頃に実施される予定です。但し、2024年度に実施した研修「少年事件にもよりそい弁護制度を活用しよう」の動画は、二弁のYouTube動画研修サイトに掲載されており、当該動画を視聴し、報告書を提出することによって、要件を満たすことができます。
2025年9月現在、二弁のよりそい弁護士名簿には、12名の弁護士が登録されています。今後、よりそい弁護士制度の活用を増やし、少年事件などでも積極的に支援を行っていくことが想定される中、名簿登載者の数が足りていないのが現状です。
より多くの二弁会員に、よりそい弁護士制度を理解していただき、名簿への登録をお願いしたいと考えています。
3 これまでの活動
⑴ これまでの活動の概要
2022年の制度開始以降、刑事被拘禁者等からのよりそい相談の申込みや、刑事施設職員、あるいは法務省東京保護観察所職員などの公的機関や、国選弁護終結間近の国選弁護人からのよりそい支援の申し込みも、徐々に増えてきています。
2024年度は、16件の申し込みがありました。
よりそい相談に関しては、都外の施設の被拘禁者からの申し込みも複数あり、出所後の帰住先が東京であるなど、支援の必要性や有用性が見込まれる場合でも、よりそい相談の対象とはなっていないため、やむなく断る事例もありました。
このような場合、出所が近づいた段階で、施設側からよりそい支援活動を申し込めば、受け入れられる可能性もあることなどを伝えて、なるべく取りこぼしなく支援につながるよう、できる範囲で配慮しています。
保護観察所等からの支援要請は、出所後に更生保護施設などに入所している人たちが施設を出ることになった際に、職員らが対象者の退所後の生活を心配して、よりそい支援活動の要請をしてくる例が散見されます。
このような場合、施設退所間際の申込みであったりすると、対象者とのコミュニケーションを図ったり、適切な支援策を練ったりするのに十分な時間が取れないこともあります。
そのため、法務省や更生保護施設等とは、引き続きコミュニケーションを維持して、対象者の出所・退所後の生活再建のために十分な時間的余裕をもって、より良いタイミングで制度を活用してもらえるように、周知を図っていく必要があると考えています。
⑵ 具体的な活動事例
ア 生活保護申請等
生活保護申請の援助を行ったケースは複数件ありました。
出所後に役所へ同行し、生活保護申請を行う活動に関しては、日弁連の委託援助制度を利用することができ、報酬額も、日弁連の制度の方が高額であるため、よりそい制度の活用は想定されていません。
そのため、生活保護に関するよりそい弁護士制度の活用範囲は、刑事施設等在所中の本人との面会、要望・事情の聴取り、施設担当者との協議、あるいは必要書類の手配などであると考えられます。
イ 帰住先・身元引受等に関する調整
出所後の帰住先や就労先、身元引受等について、親族や就労先、保護観察所等と調整する活動に対する援助も行われました。
刑事被拘禁者の中には、家族や友人との関係が絶たれてしまっている方が少なくありません。身元引受人がいない場合、仮釈放が認められにくく、長期収容につながりやすくなります。満期出所になった場合、保護観察もつかないため、出所後の支援につながりにくくなるという側面もあります。
そのため、身元引受人になってくれそうな親族等や、就労を受け入れてくれる協力雇用主等との調整は、より円滑な社会復帰と更生支援のために重要な活動であり、よりそい弁護士制度がその効力を発揮する事案であると考えます。
ウ 釈放後の施設入所手続き等
釈放後に、グループホームや自立準備ホーム、更生保護施設等に入所する例も多く、そうした場合の受け入れ施設との事前の交渉や環境調整も、よりそい支援活動の対象になります。
こうした例では、生活保護申請や、障害者手帳等の再発行申請なども、並行して行われる例が多いようです。
不起訴事案などで、釈放後に弁護人が、留置施設からグループホーム等迄付き添うことはままあるかと思います。これまでは、行きがかり上のボランティアとして行われることもあったと思いますが、よりそい弁護士制度を活用すると、こうした、国選弁護人の職務が終わった後のアフターケアにも援助金が支払われる場合があります。
4 他会との連携
前述のとおり、東京におけるよりそい弁護士制度の導入は、二弁が最初でした。その後、2024年に第一東京弁護士会(以下「一弁」という。)、2025年に東京弁護士会(以下「東弁」という。)がよりそい弁護士制度を整備しました。
そこで、2025年10月、東京三弁護士会よりそい弁護士制度に関する協議会(以下「三会よりそい協議会」という。)が発足し、今後は、三会が協力して制度を運営していくとともに、法務省の関東矯正管区との協議なども、三会が足並みをそろえて行っていくことになります。
これまでは、各単位会がそれぞれ窓口を設けて、よりそい支援等の申し込みを受け付けてきました。
今後も各単位会会員弁護士からのよりそい支援活動の申し込みは、引き続き各単位会が受け付けます。しかし、対象者や矯正施設の職員等からの申し込みは、三会よりそい協議会が受け付け、各単位会に割り振ることになります。
なお、関東矯正管区の管轄内でよりそい弁護士制度を整備している単位会としては、東京三会のほかに山梨県弁護士会があります。
矯正管区との協議等を行うにあたっては、山梨県弁護士会とも情報交換等を行い、よりそい弁護活動がより充実したものとなるよう、協力をしていきたいと考えます。
5 今後の展望
⑴ 専門職の協力を得た場合の報酬支払について
よりそい弁護士制度は、被疑者、被告人、並びに刑事施設又は少年院在所者及び退所者の社会復帰や再犯防止のために弁護士が伴走し、支援することを目指した活動です。
そのため、特に高齢者や精神障害等を持つ方のみを対象にした制度ではありません。
しかし、現実には、高齢であったり精神障害等を有していたりする方が、自力のみでの生活再建や社会復帰に困難を抱えやすく、その結果、再犯の要因に接しやすい傾向があるように思います。
そして、こうした方たちのよりそい支援活動を行うにあたっては、医師、臨床心理士、又は社会福祉士等の専門家の支援を受けて、出所後の生活再建のための計画を練る必要があります。
特に、社会福祉士等には、在所中から面接を重ねて本人の意向を聞き取り、あるいは特性を理解したうえで、個々の対象者にとって最適な支援計画の作成に協力してもらう必要があります。
しかし、現在の二弁のよりそい弁護士規則には、よりそい支援活動に協力してくれた専門家に対する報酬の支払いに関する規定がありません。
そのため、仮に医師に診断書を作成してもらったり、社会福祉士に施設へ出張して面接を実施してもらったりしたいと考えた場合、よりそい弁護士が自腹を切らなければならない建付けになっていました。
なお、一弁のよりそい弁護士規則には、当初から、こうした専門家への報酬支払に関する規定が定められていました。
前述のとおり、東京三会すべてに寄り添い弁護士制度が整備され、三会よりそい協議会が設置されました。今後は、三会よりそい協議会が申込みを受け付け、各会に順番に配点することが想定されます。
そうすると、精神障害等の特性に合わせた支援が必要な対象者について申込みがあった場合、一弁に配点されれば、社会福祉士等が面接をして適切な支援計画を策定できるにもかかわらず、二弁に配点されると、報酬支払が困難であるため専門家の協力が難しくなる、というような支援の不均衡が起きかねません。
そのため、現在、二弁の規則を、医師、臨床心理士、又は社会福祉士等の専門職の協力を受けた場合の報酬を弁護士会が支援することができるように改正する準備を進めています。
⑵ 少年事件における活用
犯罪白書令和5年版によると、非行少年は、親との離別・死別により、頼るべき大人がいなかったり、家庭内の大人が飲酒やうつなどの問題を抱えているため十分なケアを受けられなかったり、虐待被害に遭っていたりする例も多くみられるとのことです。
そのため、審判や裁判が終結した後、あるいは保護観察所や少年院、刑事施設から出てきた後、家庭に戻ることが困難な少年は少なくないのです。
これまでは、付添人や弁護人であった弁護士が、担当した少年たちを気遣い、手弁当で面会をしたり、出院・出所後の生活支援を行ったりしていた例も多かったと思います。
よりそい弁護士制度は、まさにそのような、非行少年の社会復帰支援をする弁護士たちの活動への活用に適した制度であると思われます。
例えば、少年院入院中の本人との面会、出院後の環境調整に関する家族等との交渉・相談、教育や就労の支援、あるいは地域資源につなげるための市区町村等との交渉・相談などは、よりそい支援活動として行うことができると考えられます。
しかし、二弁では、制度開始以降現在に至るまで、少年事件に関連したよりそい弁護士制度の活用例はまだありません。
そこで、2024年度のよりそい弁護士名簿登録要件研修は「少年事件にもよりそい弁護制度を活用しよう」と題して、少年事件を多く担当してきた木村真実弁護士を講師に招いて実施しました。
前述のとおり、この研修の動画は、二弁のYouTube動画研修サイトに掲載されているので、より多くの会員に動画をご覧いただき、少年事件へのよりそい弁護士制度の活用を広めていただきたいと考えます。
6 むすび
よりそい弁護士制度は、導入している単位会もまだ少なく、先例も多くはありません。
しかし、これまで弁護人らが、弁護人の仕事ではないから、弁護人としての仕事は終わってしまったから、報酬が見込まれないから、として断念してきた活動を、弁護士会がサポートする制度の潜在的なニーズは決して少なくないと考えます。
これまで、会員各位が、担当した国選事件などで行ってきた、あるいは行いたくて行えなかった入口支援、出口支援等が、よりそい弁護士制度の支援対象になる可能性は大いにあります。
迷ったらぜひ、二弁拘禁委員会へお問い合わせください。

