旧統一教会問題の現状と今後の課題

2025.11.11
 

弁護士 阿部 克臣(あべ・かつおみ) 62期

 

1 はじめに

 2022年7月の安倍晋三元首相銃撃事件を契機に大きく社会問題化した旧統一教会問題は、2025年3月に東京地裁で解散命令決定が出て、10月現在、東京高裁で抗告審の審理が続いています。早ければ年明けにも高裁の決定が出るとも言われており、解散命令確定後は清算手続に移行し、旧統一教会問題は新たなステージに移ります。
 当職は、2022年11月に結成された全国統一教会被害対策弁護団の事務局次長を務めるなどしてこの問題に取り組んできましたので、現状と今後の課題についてご説明します。

 

2 被害救済及び被害抑止に向けた活動

(1) 解散命令

 ア 2022年10月、岸田文雄首相(当時)は、宗教法人法81条1項1号の解散事由である「法令」違反に民法の不法行為違反も入り得ると初めて国会答弁し、その調査のためとして、同年11月、永岡桂子文部科学大臣(当時)により、旧統一教会に対して宗教法人法上の報告聴収・質問権が行使されました。同権限はオウム真理教事件を受けた1995年の宗教法人法改正より創設されたものですが、行使されたのはこれが初めてでした。
 文部科学大臣は、計7回にわたり同権限を行使し、教団からの回答を求めるとともに、全国の170名を超える被害者へのヒアリングを行うなどして資料を収集しました。
 2023年10月13日、盛山正仁文部科学大臣(当時)は、旧統一教会による献金勧誘行為等が多数人の生活の平穏を害し解散事由にあたるとして東京地裁に解散命令請求を行い 、文化庁はこれを立証するために段ボール箱20箱・5000点にも上る証拠を提出しました。
 解散命令請求事件は非訟事件であるため審理は非公開で行われましたが、2025年3月25日、東京地裁は、旧統一教会に対して解散を命ずる決定を出しました。
 同決定においては、旧統一教会による法令違反行為は約40年間にわたり全国的に行われ、総体として類例のない膨大な規模の被害を生じさせたとされ、不法行為に該当する献金勧誘などの行為の態様は総じて悪質であり、本人や近親者らの生活の維持に重大な支障が生じ、長期間にわたって深刻な影響を受けた者が相当数おり、結果も重大である、献金勧誘などの行為は、個人の利益である財産権や生活の平穏などを侵害し、単に公共の福祉を害するだけでなく、総体として「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」にあたる、とされました。そして、旧統一教会が引き起こしてきたこのような問題は「相当に根深」く、「近時でも看過できない程度の規模の被害が生じている」とされ、もはや旧統一教会に「事態の改善を期待するのは困難」であるとまで断じられています。
 旧統一教会側はすぐに即時抗告を申し立て、2025年10月現在、東京高裁で抗告審の審理が続いていますが、早ければ年明けにも抗告棄却決定が出ると見込まれています。非訟事件のため、高裁の抗告棄却決定により確定となります。


(2) 清算手続

 清算手続が始まると、直ちに裁判所により清算人弁護士が選任され、宗教法人の代表役員に代わって清算法人の代表者の地位に就き、裁判所の監督の下で、法人格の消滅に向けて清算業務を進めていくことになります。なお、法人格が消滅しても宗教団体としては存続します。

 ここで問題なのが、宗教法人法において、清算人の権限は、清算人の「職務を行うために必要な一切の行為をすることができる」としか書かれておらず、破産管財人の調査権・否認権のような権限はなく、非常に弱いということです。関係者の説明義務・調査協力義務や、破産犯罪のような規定もありません。宗教法人法の規定は、基本的に任意解散により平穏に解散がなされた場合を想定した規定であり、解散命令により強制的に法人格が剥奪された場合を前提とした規定ではないのです。

 旧統一教会は、現在、日本中どころか世界中で「宗教迫害」「宗教弾圧」を盛んに訴え、解散命令請求を担当した文化庁職員を文書偽造罪で刑事告発するなどして激しく抵抗していますから、清算手続が始まっても、当然、清算人に対して激しく抵抗してくることが予想されます。しかし、上記のような宗教法人法の規定では、清算手続が円滑かつ実効的に進むのかは甚だ心許ないと言わざるを得ません。
 そこで、清算人の権限強化を図るなど、清算手続を円滑かつ実効的に進めるための法整備が必要となります。日弁連は、2025年2月20日、「解散命令後の清算に関する立法措置を求める意見書」を公表し、必要な法整備を求めました。
 文化庁も、同様な問題意識から、2025年5月、円滑な清算に資するための指針案の策定に向けた有識者検討会を設置し検討を重ね、10月20日に指針を公表しました。
 オウム真理教の破産手続においては、幾つかの立法により円滑な手続が図られました。旧統一教会の清算手続においても、指針で対応できない部分については、速やかに立法措置が講じられるべきです。

(3)余った財産はどうなるか

 清算手続の出口のところで、実はもう一つ大きな問題があります。清算手続後に余った残余財産がどこに行くのか、という問題です。
 2025年3月の解散命令決定によれば、旧統一教会には、2022年末で約1181億円の資産があるとされています。他方で、後述のとおり全国統一教会被害対策弁護団の旧統一教会に対する請求金額は現時点で約73億円弱であり、今後、請求者が増えていくとしても、かなりの資産が余ることが予想されます。
 この残余財産の帰属については、宗教法人法により処分の順位が決まっており、第一順位として、解散した宗教法人内部の規則の定めによる、とされています。
 
 ところが、旧統一教会の規則では、決議により定めた他の宗教法人に帰属する、とされており、旧統一教会は、既に2009年に傘下の宗教法人天地正教(北海道帯広市)に帰属すると決議しているため、このままだと残余財産はそのまま旧統一教会傘下の宗教法人に引き継がれることになるのです。
 これでは、ようやく解散命令が出て清算手続が終わり、法人格が剥奪されても、後継法人により従前同様の活動を継続することが可能となり、解散命令制度がまさに骨抜きになってしまいます。他方で、残余財産は、様々な事情により清算手続中に声を上げられず、清算結了後に初めて声を上げることができた被害者の救済には充てられないことになります。
 このような不合理な帰結となるため、残余財産の帰属についても立法措置を講じることが必要となっています。

(4)被害者の救済をどう図るか


 ア 旧統一教会の被害者救済は、1987年に全国の約300名の弁護士により結成された「全国霊感商法対策弁護士連絡会」(全国弁連)が、長年、取り組んできました。
 しかし、2022年7月の安倍元首相銃撃事件以後は、全国の相談窓口に多数の相談が寄せられるようになったことから、その受け皿として新たに「全国統一教会被害対策弁護団」(全国弁護団) が結成されました。同弁護団は、日弁連のバックアップを受け、日本司法支援センター(法テラス)とも連携して活動しており、現在では全国の360名の弁護士が参加しています。
 全国弁護団は、2023年2月以降、10次にわたり旧統一教会に対して損害賠償を求めて集団交渉の申入れを行っており、これまでの請求総額は約60億5367万円、被害者数は205名(家族・相続人も含む。)に上っています。しかし、旧統一教会は、各地の信徒会なるダミー団体に対応させるとし、本部が全く対応しないことから、全国弁護団は、被害者の大部分を調停に移行させ、新たな調停申立てを含め調停での請求総額は約72億8905万円、被害者数は223名(家族・相続人も含む。)に上っており、現在、東京地裁で旧統一教会本部を相手に調停期日が重ねられています。2025年10月2日、申立人のうち高齢者3名についてようやく調停が成立し、統一教会が解決金約5400万円を支払い、更に10月27日、高齢者ら38名に総額12億8900万円を支払うとの調停が成立しました。ただ、調停を申し立てている被害者はまだ180名以上おりますので、全国弁護団としては、残りの申立人全員について速やかに調停を成立させるべく取り組んでいます。

 イ 旧統一教会の被害者救済を巡っては、近時、注目すべき重要な最高裁判決が出ています。
 令和6年7月11日最高裁判決は、宗教団体や信者が献金勧誘を行うにあたり被勧誘者に対して一定の配慮義務を負うとした上で、それが違法かどうかを判断する基準を初めて示し、「勧誘に用いられた言辞や勧誘の態様のみならず、寄附者の属性、家庭環境、入信の経緯及びその後の宗教団体との関わり方、献金の経緯、目的、額及び原資、寄附者又はその配偶者等の資産や生活の状況等について、多角的な観点から検討することが求められる」として、被害者救済の幅を広げました。
 今後は、この判決を前提に献金勧誘の違法性が判断されることになります。

(5)2世問題


 ア 旧統一教会による被害は金銭被害に留まらず、精神的被害も深刻であり、家族の断絶や2世問題も生じさせています。
 このような被害者・家族・2世にどう寄り添い、支援していくかが大きな課題となっています。法的支援のみならず、心理専門家によるカウンセリング等の精神的支援、就労・生活困窮問題の解決に向けた経済的支援等を一体的かつ迅速に提供していくことが必要です。
 この点については、2022年の臨時国会における衆議院・参議院の各消費者問題特別委員会の附帯決議でも言及され 、2024年1月に開催された「『旧統一教会』問題に係る被害者等への支援に関する関係閣僚会議」でも、関係各省庁により被害者支援に向けた種々の充実・強化策を講じるとされていますが、未だに十分とは言えません。日弁連は、宗教2世について、2023年12月、「宗教等二世の被害の防止と支援の在り方に関する意見書」を公表し、国及び地方自治体に対して宗教2世の権利保護に向けた様々な施策の実施を求めています。

 イ 全国弁護団では、旧統一教会の元2世信者が幼い頃から受けた様々な被害の法的救済について検討を重ね、2025年7月、8名の2世を原告、旧統一教会を被告として、慰謝料の支払を求める損害賠償請求訴訟を東京地裁に提起しました。2世被害に関する教団側の責任を問う訴訟についてはこれまで前例がなく、初めての試みです。

 ウ 宗教を背景とした、宗教的虐待と呼ばれる様々な虐待については、2022年末に厚生労働省がQ&Aを出し、宗教の信仰等を背景とする児童虐待について適切に対応するように各所に求め、2023年度にこども家庭庁が同Q&Aの児童相談所・病院・学校・自治体への周知状況等について全国的な調査を行い、2024年度に保護者の思想信条(宗教を含む。)に起因する医療ネグレクトに関して同様の調査を行ったものの、これだけでは不十分です。
 これまでに生じた宗教虐待の実態について、大規模かつ全国的な当事者に対する調査が必要であり、その上で児童虐待防止法の改正あるいは第三者虐待防止法等の新たな立法が必要です。

(6)不当寄附勧誘防止法の見直し

 2022年12月、旧統一教会による高額献金被害を念頭に、宗教法人等による不当な寄附勧誘を規制する法律として「不当寄附勧誘防止法」(被害者救済新法)が成立しました。しかし、被害救済の実効性という観点からは甚だ不十分な内容となっており、この2年半の間にほとんど適用事例はありません。同法には附則で2年後見直しが定められており、2025年6月に施行から2年を迎えたため、早急な見直しが必要となっています。
 日弁連も、2023年12月14日に「霊感商法等の悪質商法により個人の意思決定の自由が阻害される被害に関する実効的な救済及び予防のための立法措置を求める意見書」を公表し、見直しを求めました。
 しかし、消費者庁は、2025年9月、不当寄附勧誘防止法の見直しに関する報告書を公表し、現時点においては法改正すべき立法事実は認められないとして、見直しを見送っています。

(7)政治と旧統一教会との癒着の断絶

 政治と旧統一教会との癒着は、立法・行政を歪ませるほか、現役信者の信仰にお墨付きを与えることになり、脱会を困難にさせ被害拡大に寄与するなど、問題性が大きいものです。
 政治と旧統一教会とのこれまでの癒着の実態及びその問題性が明らかになって以降、例えば自民党は、旧統一教会との従前の関係性を問うアンケートを実施したり、今後はその関係を絶つという表明したりするなどしていますが、これだけでは不十分です。国会内への第三者委員会の設置等により、これまでの旧統一教会との関係が全て明らかにされるとともに、政治家は、今後は旧統一教会との関係を絶つ必要があります。
 2024年10月の衆議院総選挙前に、全国弁連は、主要政党の代表に公開質問状を送るなどして世論喚起を図りましたが、政治と旧統一教会との関係はほとんど争点にされず、旧統一教会と関係の深い議員が漫然と当選するに至っています。今年7月の参議院選挙でも政治と旧統一教会との関係は争点とされず、世論の関心も低くなっています。

3 韓国の状況

 旧統一教会韓国本部の元幹部が韓国の前大統領夫人に金品を贈り教団への政府支援を求めた事件などに関し、2025年9月、韓鶴子総裁が韓国検察により逮捕され、10月に起訴されました。
 教祖文鮮明の妻である韓鶴子総裁は、2012年に亡くなった文鮮明を引き継ぎ、「真のお母様」としてメシアを宣言しており、教団内で絶大な影響力を有します。また、日本の旧統一教会は、世界レベルで見れば日本支部に過ぎず、韓国本部傘下にある一組織にしか過ぎません。
 したがって、日本の旧統一教会は韓国本部の動向の影響を受ける立場にあり、刑事事件をめぐる韓国での状況を注視していく必要があります。韓国での刑事事件を通じて日本の組織を含めた組織全体の実態解明が期待されます。

4 おわりに

 旧統一教会による被害は余りにも長期にわたり、余りにも広範、深刻かつ多様であるため、被害救済及び被害抑止に向けた活動もまだ道半ばであり、安倍元首相銃撃事件以後の様々な取り組みによっても、問題はまだほとんど何も解決していないと言って良い状況です。今後も、一部の被害者・支援者・弁護士だけでなく、社会全体が引き続きこの問題に関心を持ち、被害救済及び抑止に向けた様々な活動を継続していくことが必要です。

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