弁護士 山本 剛(やまもと・ごう) 55期
私は新人のころ犯罪被害者支援委員会を傍聴しに行ったところ、出席されていた全友会の先輩から「君決まりね」と声をかけられ、それ以来被害者支援にかかわっている(今ではその先輩と事務所も一緒にさせていただいている)。今回、全友会からスペースをいただいたので、被害者支援について思っていた事項について述べていく。
1 二次被害の防止を
犯罪被害者支援に関わる制度や法律はいくつかある。しかし、法律自体は複雑な解釈を要するものも少なく、受任するとなった時に調査すれば対応することができるため、受任の機会があればためらわずに受任していただきたい。その際一つだけ注意していただきたいことは、いわゆる二次被害を避けることである。
被害者は、犯罪による直接的な被害の外、メディアスクラムなどの二次被害を受けることがあると言われている。
弁護士を含む支援者からの慰めや励ましのつもりの言葉等が逆に被害者を傷つけるとも言われている。
たとえば、「頑張って」など、発言する方からすると何気ない一言であるが、被害者としてはもうこれ以上頑張れないのにまだ頑張らないとならないのか、と傷つくことがあると聞く。次元が違うので引き合いに出して良いか迷うが、私もなかなか司法試験に受からないときに言われて負担に思った経験もあり注意していただきたい。他の事件との比較や、毎日電話しますなどできない約束をしてしまうことなども傷つくといわれている。
ただ、結局は、被害者と弁護士との関係やタイミング次第でもあり、要は、被害者を目の前にして何か気の利いたことを言わなければならないと焦って間に合わせの言葉を言うことを避けることに尽きる。
なお、以前研修で、被害者に「何で」とは聞かないようにすべきと聞いたこともある。例えば深夜被害に遭った被害者に「なんでそんな時間にいたの?」と聞くと、被害者は非難されているように感じるそうである。例えば、その時間になった理由を教えてくださいとすべきということであった。注意してみると確かに非難の響きが潜んでいるともとれる言葉であり注意したい。
2 宥恕文言のない示談を
被害者支援において示談交渉をすることがあるが、その際、宥恕文言で弁護人と意見が対立することがある。弁護人は、検察官から「宥恕文言がないから起訴」と言われることもあるようであり、不起訴、執行猶予、刑の軽減のため「許す」という宥恕文言を求めることがある。
この点、被害者には「定型のものだから」と説明して示談書への記載に同意してもらうこともある。しかし、顔見知りによる犯行ならともかく、傷害や性被害の事件で、事前に面識のない犯人から突然、お金をもらったり謝罪文をもらったからといって「許す」ということにはならないと思う。「許す」ことは現在刑事事件で弁護士同士が勾留満期や公判期日を気にしてやり取りしているようなものではなく、もっと深いものではないか。
治療費や転居を余儀なくされその費用だけでも得たいと考える被害者が「許す」という文書の作成に応じさせられるのも不本意であり、「許す」という文言がないために起訴される被疑者も酷である。例えば「不起訴/執行猶予はやむを得ません」「構いません」などの文言で代替することが一般化すればよいと思う次第である。
3 弁護人は分割払いでも示談のチャレンジを
しばらく日本の法律においては犯罪被害者給付金にかかる法律のほかに被害者のための法律はなかったが、2000年5月に犯罪被害者保護二法が制定され、その一つである「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」の第6章「民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解」(同法19条以下)がいわゆる「刑事和解」であり、被害者のための制度としては最古参のものの一つである。
私は各所においてこの制度の利用を勧めているが、全国で18件(2019年)、25件(2020年)、19件(2021年)、19件(2022年)、17件(2023年)と危機的な状況であり(令和6年版犯罪被害者白書第2部第1章1(3)より。)、その原因はこの制度が知られていないところにあって、同白書の先の項の表題(「刑事和解等の制度の周知徹底」)もこの制度を知る者の危惧を表わしている。
刑事和解は、被害者と被告人が行った示談(和解)を刑事事件の公判調書に記載してもらうものであり、そのまま和解調書として裁判上の和解と同一の効力を有し(同法19条4項)、債務名義になる。
刑事和解が特に有効な場面は、被害者側でなく、弁護人として提案する和解案が分割払いになるときである。
被告人としては直ちには支払えないものの支払う意欲も能力もあるのであれば、合意をして刑事事件の公判調書に記載されることで、より裁判所に支払いの意思ひいては反省・更生の意思が伝わることになる。
被害者としても、例えば別訴を提起したり、判決後の損賠賠償命令で別途手続きが進むより簡便に債務名義を取得することができるという利点がある。しかも、被告人が保証人を用意した場合、保証人の印もあれば保証人に対しても債務名義を有することになる。
この制度を利用するには、弁論終結までに、合意内容を記載し、弁護人及び被害者側が押印した申立書を提出する必要があるが(同法19条2項)、それさえあれば控訴審でも行うことができ(同法19条1項)、損害賠償命令のように新たな手続きではなく別途弁護士費用がかかることもないのが通常である。申立書の書式は裁判所がもっており(書記官に相談すること)、申立ての印紙代も2000円で済むのであるから、被告人に示談の意向がある場合、弁護人は、被害者側に対して「債務名義が得られますよ」と提案する価値はある。もし一審後の損害賠償命令において分割払いの和解をするときは、刑事和解を行わなかった点を反省する必要があるとも思う。
弁護人主導で利用する刑事和解制度が被害者支援制度として位置づけられているために周知されていないと考えられ、刑事弁護の研修で取り上げるよう希望する。
4 精通弁護士登録と被害者支援弁護士契約を
(1) 援助事業の国費化が実現
刑事事件において、被疑者被告人に対しては国選弁護人制度がある一方、被害者に対してはDVストーカーに限った法律相談のほか、被害者参加人について国選被害者参加弁護士制度があるのみであった。そのため、日弁連は犯罪被害者法律援助事業を行って弁護士費用を負担しつつ、その国費化を求めてきた。
具体的には、2012年に「被害者法律援助制度の国費化に関する当面の立法提言」、2017年の人権大会において「犯罪被害者の誰もが等しく充実した支援を受けられる社会の実現を目指す決議」、2019年に「国費による犯罪被害者支援弁護士制度の導入を求める意見書」を公表しつつ、法務大臣、国会議員に働きかけていた。日弁連の犯罪被害者支援委員会の呼びかけもあって犯罪被害者法律援助事業の利用件数も年々増加しており、実際に必要性が認知される状況にあった。
そして、2024年4月、総合法律支援法が改正され、殺人罪、危険運転致死罪などの遺族や性犯罪の被害者を、早期の段階から弁護士が一貫して支援する犯罪被害者等支援弁護士制度が創設された(以下「新制度」)。
これにより被害者は事件発生直後から弁護士の支援を受けることができ、刑事手続の対応のほか、民事訴訟についても弁護士に依頼することができるようになる。
たとえば、被害届の提出や告訴、事情聴取等の捜査機関対応、加害者・弁護人との示談交渉、証人尋問や法廷傍聴、少年審判傍聴等の刑事手続のほか、加害者に対する損害賠償請求訴訟等の民事手続も含め、早期の段階から弁護士が被害者等の代理人となることが可能となる。
(2) 新制度の内容
対象となる被害者は、殺人、傷害致死等の故意の犯罪により人を死亡させた罪の被害者、不同意性交等罪等一定の性犯罪の被害者等の外、今後政令で定まる程度の重傷を負った被害者である。
国選被害者参加弁護士制度の資力基準は原則流動資産が300万円以下であるところ、新制度もこれと同等となる予定である。
新制度は法律相談と代理援助を予定しており、法律相談では弁護士は法テラスから報酬を得られ、被害者の費用負担はない。
代理援助についても弁護士は事件終了後に法テラスから報酬を得られ、被害者は原則は償還不要である。ただし、現実に入手した金銭がある場合には入手額に対して一定の割合を弁護士の報酬として被害者が負担することとなる。また高額賠償を得た場合には償還を要することも現行の援助事業と同様である。
弁護士の報酬は、起訴前の活動、起訴後の活動、民事手続での活動の有無によって変動する予定である。それぞれの金額を設定する際、現行の援助制度よりも弁護士報酬を増額し、充実した被害者支援を実現するという要請と、被害者自身には負担がなく国費で賄うという面のせめぎ合いがあったが、交渉過程を知る身としては了解できる内容となったと思う。
なお、民事事件の部分については民事法律扶助と重なるため、新制度と民事法律扶助の両方を利用することができる場合、費用の償還が不要な新制度を利用することが被害者の負担軽減につながる。
(3) 支援弁護士の基本契約を
民事法律扶助制度と同様、弁護士が新制度を利用して受任するには、法テラスと基本契約を締結した上で個別契約を締結することとなる。基本契約の締結には被害者支援研修を受講したことを要する。
上記のとおり新制度では被害者は弁護士費用の償還が不要であることから、これまで民事法律扶助で対応していた事件も扶助ではなく新制度を利用することが見込まれるため、契約弁護士を増やす必要がある。新制度は日弁連の宿願がやっと実ったものであり、他の法律援助事業の国費化の試金石ともなるため、受任者が足りないなどという事態は避けなければならない。犯罪被害者支援委員会を中心に、弁護士会としてもどのように契約弁護士を確保していくかを検討して実現する必要がある。
5 加害者側と被害者側、双方受任を
被害者支援自体は基本的に二次被害に気をつければ誰でも行うことができるものと考えているが、適切に被害者支援を行うには刑事事件の流れを十分理解している必要がある。例えば示談がいつまで可能かなど(不起訴、執行猶予になれば示談の可能性はなくなる)、実感として知っておけば慌てないですむ。他方、弁護人も、被害者側がどのように思うか、どのように見えるかを知っておくと方針も立てやすくなると思う。裁判員は一般の人がなるところ、被害者は一般の人でもあるから、弁護活動に対する被害者の反応は裁判員の反応に近いと考えられ、弁護活動に対する反応を直接聞くと、法曹ではない一般の人の評価を知る一助になると思う。
双方の立場に立つことでより良い活動ができ、刑事事件を法律の手続に従って社会的法的秩序を回復するという刑事訴訟の目的を実現できるため、ぜひ積極的に双方の立場を経験していただきたい。
6 加害者家族支援も(番外)
最後に、最近始まった犯罪加害者家族支援PTについて報告する。犯罪加害者家族は、事件の発生により突然これまでの生活が奪われるという点、しかも自分自身には責任がない点で被害者と同様の状況にある。私も家族を情状証人に呼ぶ際に実感したことがあり、ここにも支援を必要とする人がいることを認識していたが、ようやく日弁連にPTができ、私もその一員として呼ばれた。まだ緒に就いたばかりであるが、どのような支援ができるかなどを検討して行きたい。

