弁護士 中森麻由子(なかもり・まゆこ)63期
1 はじめに
2025年7月11日(金)から12日(土)にかけて、横浜のホテル「ナビオス横浜」にて全友会合宿が行われました。22期から78期(司法修習生)まで、50期以上離れた約40名が集まりました。
2 第一部「若手弁護士が実務の悩みや体験を語る。みんなで議論しよう!」
第一部は、荻上守生先生の企画・司会進行の下、三田直輝先生、大野友己先生、堀智之先生の3名の若手弁護士が自身のリアルな体験談の報告がありました。
三田先生による筋ジストロフィー症で発話できない方の出張尋問に至るまでの苦労話の報告や、堀先生による振り込め詐欺の被害金の回収について、秘技とも言える手法の報告があると、会場からは活発に質問がなされ、議論が交わされました。他職経験として現在弁護士をしている若手裁判官の大野先生には、裁判所の対応など具体的な質問が投げかけられました。
会場からは、自身の体験から具体的なアドバイスがなされるなど、今後参加者が直面した場合にどのように解決していけばいいのか、様々な議論が交わされました。実際に携わった事件について、失敗談も含めた具体的な経験談に触れる機会は貴重で、良い勉強になりました。
3 第二部「全友レジェンドが語る司法制度改革の成果と課題、そして若手に送るエール」
第二部は、水上洋先生の企画・司会進行の下、司法制度改革を4つのテーマに分け、全友会レジェンドの川端和治先生(22期、2000年度二弁会長・日弁連副会長)、尾崎純理先生(25期、2003年度二弁会長・日弁連副会長)、吉成昌之先生(27期、2007年度二弁会長・日弁連副会長)、黒田純吉先生(30期、1995年度二弁副会長・1996年度日弁連常務理事)、幣原廣先生(34期、1999年度二弁副会長・2011年度日弁連常務理事)からお話を伺いました。
「法曹人口の拡大・法曹養成制度の改革」について、川端先生から、1990年まで長きにわたり、日本社会の法的需要を無視して司法試験合格者数が約500人に固定され、法律扶助制度も僅かな予算しかなく、救済されるべき人が救済されてこなかったこと、それまで日弁連は法曹人口の拡大に後ろ向きであったが、2000年11月の日弁連の臨時総会で合格者3000人を目指すことを決議したこと、 法曹養成制度をどう変えるかが重要なテーマになっていった経緯や、当初描いた夢を実現することがいかに難しいか等をお話いただきました。
続いて吉成先生から、弁護士が社会のニーズに応えるために弁護士人口増は推進すべきと考えていたこと、弁護士の質を確保するためロースクール構想に期待したというお考えが示されました。また、その後、合格者は増えたが大都市一極集中の問題が生じていること、ロースクール教育は一定の成果を上げているが、現在は地方のロースクールがなくなってしまったことや予備試験制度の問題点等についてお話がありました。

黒田先生からは、法曹の質の確保の観点から、法曹にとって多様な経験は意義があり、多様なバッググラウンドを持つ人が法曹に入るよう、大宮大学法科大学院で教鞭をとられた経験等をお話いただきました。
質疑応答においては、ロースクール世代の私を含む若手参加者から、司法試験制度を根本から変える制度改革を多くの先生方の問題意識と活動によりなされた歴史に触れることができて感銘を受けた等の感想、3プラス2の感想や在学中受験の問題点についてお話がありました。
「裁判員制度の導入・刑事司法制度の改革」について、尾崎先生から、政治が不安定で強い司法が求められた中で内閣に司法制度改革推進本部が作られ、様々の大きな改革がなされたこと、刑事司法は死んでいると言われていたが、刑事裁判を変えようというと抵抗する勢力もあるため、国民の司法参加という切り口から刑事司法の改革を目指したこと、裁判員制度の検討会と刑事司法の検討会が別に立ち上がり、裁判官と裁判員の人数の問題や証拠開示手続など制度が確立していった経緯等についてお話がありました。
幣原先生からは、2002年から2004年まで日弁連事務次長を務められた経験を踏まえ、司法制度改革の理念を実現できない限界を感じつつ、被疑者段階の国選弁護制度の実現を目指して活動し、抵抗もある中で力強く実現していった経緯等が語られました。
その後、当時の議論状況に関する質問があり、現在の課題(公判前整理手続、身体拘束期間の長期化、裁判員の守秘義務等)について、尾崎先生、幣原先生、吉成先生から意見や発言をいただきました。
「司法アクセスの改善・法テラス・公設事務所」について、尾崎先生から裁判員制度、法曹養成制度と並ぶ三大改革の一つである法テラスが設立された経緯についてお話がありました。吉成先生から、国家予算がつき、法律扶助が拡充したことは評価できるが、費用償還制の問題、弁護士費用の低さ、スタッフ弁護士の不足など課題は多いとの指摘がありました。幣原先生からは、法の支配を社会の隅々まで浸透させる必要があるが、金銭問題から徹底できていないことや、自ら所長を務められた東京フロンティア基金法律事務所(二弁の都市型公設事務所)の役割などお話いただきました。
質疑応答においては、最近まで日弁連事務次長を務められた中村新造先生から、新規登録弁護士がゼロないし1人の地域が増えている新ゼロワン地域の問題について、原因分析と対策のお話をいただきました。
「弁護士の活動領域の拡大」については、川端先生と黒田先生からお話いただきましたが、時間の関係で詳細を伺えなかったことは残念でした。
その後、神田安積先生から、司法制度改革を振り返り、「改革に時代あり、時代に人あり」という言葉で総括があり、1990年代と同様に政治も経済も混乱しつつある現在、司法の改革を志向する若き人材の結集が大切になるというお話がありました。
最後にレジェンドの先生方から、若手に送るエールの言葉をいただきました。「ルーティン化した業務はAIに任せることになる。弁護士はよりクリエイティブな仕事をしなければならない」、「理論と技術を学ぶだけでなく、何のために学ぶのか高い目標を忘れないで荒波を乗り切ってほしい」、「政治が不安定な中で、司法の役割を大きくする必要がある」、「弁護士になったことはスタートにすぎない。墓に入るまで努力し続けて頑張ってほしい」、「人生の過ごし方は人それぞれだが、充実した弁護士生活を送りたいのであれば、どんな事件も手を抜かず一生懸命やりなさい」、「人の不幸で飯を食う以上は、高い倫理が求められる。他人の不幸に共感する力を大切にしてほしい。」、「法律も変わる時代、これからも改革は実現していくだろうし、皆さんが関与していくこともある。」、「弁護団や弁護士会を通じた人と人との交流を大切にしてほしい。」など心に残るメッセージをいただきました。
制度改革には時代の流れがあり、その時代には様々な人がいて、理念をもって活動してこられたからこそ、今があるのだと思い知りました。本当に充実したお話を伺うことができ、身の引き締まる思いでした。
4 中華街で懇親会
初日の夜は、中華街にて懇親会が開催されました。この懇親会には、第二部に登壇された全友会のレジェンドの5名の先生方全員に参加いただき、日中には参加できなかった方も集まりました。懇親会では楽しいご挨拶が続き、引き締まった身もすっかりゆるみ、その後の全友会ゴルフの企画が決まるなど、和気藹々と語り合うことができました。
5 合宿2日目はバーベキューと観光
合宿2日目は、希望者を募って山下公園にて海を見ながらのバーベキュー、その後は赤レンガ倉庫散策やカップヌードルミュージアムの見学など、様々語り合いながら、1日を楽しみました。2日間の合宿はあっという間で、貴重なお話を伺うことができた喜びと、飲みながら多くの方々と交流ができた楽しさとでいっぱいでした。今後も是非多くの方にご参加いただきたいと考えております。

