PROFILE
POLICIES
新型コロナの感染拡大は,経済のグローバル化で拡大した「人」と「モノ」の行き来を止め,私たちの日常を激的に変化させました。世代を超えてあらゆる人々に厳しい試練を与え,貧困と格差の問題を改めて可視化し,その中で,私たち弁護士と弁護士会の社会的責任が問われています。たとえば,ある法律雑誌は,「司法は不要不急か?」という特集を組み,コロナ禍における司法の意義と裁判実務を問い直す特集を組みました(「法学セミナー」2020年12月号)。弁護士は,困難な状況にあるときこそ,利用者のために,また,社会生活の調整のために活動することが求められます。「誰一人取り残さない」というSDGsの基本理念は,弁護士会のあるべき原点でもあります。
私は,複雑化・高度化した社会からの多岐にわたるニーズに応え,また,将来の世代の会員に二弁を発展的に承継できるように,会員の多様な意見に丁寧に耳を傾け,そして必要な決断を躊躇せず,会務を進めていきます。
私たちは法律事務を独占し,自治的組織を自ら運営する自由が与えられています。しかし,万が一にも,弁護士や弁護士会の役割を十分に遂行していないと社会から評価されることがあれば,また,弁護士会の運営に必要な民主性や透明性が十分に伴っていないと会員から評価されることがあれば,弁護士自治は外部からも内部からも否定されかねません。
弁護士の職務領域が拡大し,広告規制が緩和され,弁護士の存在が身近になった今日でも,市場原理の下では弁護士の力が届かない人たちがいます。弁護士がプロフェッショナリズムを堅持し,弁護士自治を揺るぎないものとするためには,弁護士の力を必要とするあらゆる利用者,とりわけ,自ら弁護士にアクセスできない人たちに弁護士の力を届けることが求められます。そのためには,アウトリーチと関係諸機関との連携をより一層図ることが必要です。
また,弁護士自治の維持発展のためには,会務運営の民主性と透明性の確保が大切です。弁護士会の財務状況(会費の使われ方)を可視化し,わかりやすく説明する工夫に取り組みます。そして,コロナ禍を契機として,会務のデジタル化・オンライン化・会議の効率化の更なる促進とともに,総会への参加の在り方など,会員の意見がより適切に反映される制度にしていくことが検討されるべきです。
さらに,弁護士自治の観点から,研修の充実・強化,弁護士の業務領域を守るための毅然とした非弁対策,弁護士業務妨害から個々の弁護士の活動を守るためのサポート強化,弁護士不祥事対策の強化,FATF対応,法曹養成問題に対する取り組み,法曹志望者への発信も弁護士会の重要な役割です。
昨年は新型コロナの感染拡大に伴う2020年4月の緊急事態宣言により,「業務継続計画書(BCP)」における基本方針を踏まえ,弁護士会の業務は休止(職員の自宅待機)や短縮し,委員会活動も休止・延期を余儀なくされました。
当会においては,新型コロナが感染拡大する以前の令和元年度執行部において,①総会におけるペーパーレス化,②常議員会におけるペーパーレス化,③理事者会におけるペーパーレス化,④委員会におけるペーパーレス化の推奨,⑤「Niben通信」の電子データ化,⑥委員会のスカイプ参加の許容・奨励(10階会議室すべてに有線LAN敷設),⑦メールアドレスの届出義務化が実行に移されていました。しかし,新型コロナ感染拡大は,弁護士会業務が内包していた脆弱さを可視化し,令和2年度執行部は,感染症対策対応を想定した「感染症まん延時対応業務継続計画」を策定した他,会務の更なる構造改革を進めています。
具体的には,令和2年度執行部において検討が開始されたリモートワーク環境の更なる整備を進めるべく,現在,デジタル化推進チームの下進められている電子決裁,クラウドフォンの導入,ファックスのデジタル化,各種証明書発行・弁護士会照会の電子申請化などデジタル強靭化に向けた改革と関係規則の整備を引き継ぎ,その実現を図ります。
弁護士自治を堅持していくためには弁護士会の財政的基盤の確立が必要不可欠です。
2019年度の二弁の一般会計収支は,1990年度以来約30年ぶりの赤字決算になりました。もとより当該赤字決算は,前年度の総会決議に基づく一般会費の一律減額によって想定されていたものであり,その金額も想定内にとどまっています。また,二弁の一般会計における2019年度決算における次年度繰越金は11億円を超えており,会財政の健全化は十分に図られています。他方で,赤字額が上記一般会費の減額時のシミュレーションを上回っており,想定した年数以上に赤字決算が継続するおそれも否めないため,単年度収支の推移を今後も注視し,スクラップ&ビルドの予算策定や不必要な支出の抑制が求められることに留意する必要があります。
特別会計については,特に基本財産基金特別会計に注視する必要があります。同会計の2019年決算時に約48億円の繰越金があり,会館を共有している他の弁護士会と比べて相対的に多額であり,当面は盤石の財務内容であるとの評価が可能です。もっとも,以前は主たる収入であった会館特別会費が新65期以降の会員について納付義務が免除されたため,単年度収支は赤字となり,その補填は今後繰越金から填補されることになり,また,中長期的には大規模修繕工事も行われていくことを考慮すると,会館特別会費収入がなくなったことによる財政的懸念が現実化するおそれなしとしません。万が一にも現在又は将来の若手会員に想定外の負担をかけることのないように,引き続き同会計の単年度収支差額及び長期的見通しについて関心を持って臨む必要があります。
そして,若手会員を中心として会費の負担感が大きいとの声があることを踏まえ,会の財務情報について透明性を保持し,わかりやすく開示するよう工夫に努めます。
弁護士が社会に幅広く貢献するためには,専門性を磨く必要性があり,また,弁護士会が研修を充実・強化し,会員の資質の維持・向上につとめることは,弁護士自治の観点からも重要です。
二弁では,会員のスキルアップのために,倫理研修のほか,全会員向けの継続研修や,新規登録弁護士を対象とするクラス別研修などに力を入れています。
継続研修では,コロナ感染予防のため,Zoomでの配信をしたり,会員サイトで講義録を掲載するなど,利用しやすい方法を引き続き工夫していきます。コンテンツは,初級から,中・上級,先端・新領域に至るまで,幅広い研修を用意しています。法改正が相次ぐ中で,新しい情報をわかりやすく学べる講座や,IT化やテレワークなど最新のテーマに対応した講座など,専門性を深めつつ業務に役立つ研修を充実させるとともに,日弁連の研修コンテンツとの連携も図り,受講しやすいパッケージの提案なども進めていきます。
非弁対策は,弁護士の業務領域を守るとともに,究極には市民への被害を防止するという観点から重要な弁護士会の使命です。これからの非弁対策には,大きく2つの視座が必要であり,1つは新しい形態の非弁提携であり,もう1つは隣接士業による権限拡大要求です。
近年は,司法書士との非弁提携,探偵との非弁提携,広告会社との非弁提携,多数の投資詐欺被害者に対する着手金詐欺が疑われる非弁提携など新しい形態のものが見受けられるようになっています。特に,広告会社との非弁提携は,広告会社と称する企業が,弁護士の営業支援の名目で広告を仕切って集客し,主に地方で弁護士に債務整理の無料法律相談をさせるものの,事件の受任の可否,報酬の取り決め,売上の使途については口出しさせず,最終的に相談者から法外な報酬を取り,預り金を広告費や業務委託料に流用して業者に収益を移すものであり,昨年問題になった弁護士法人東京ミネルヴァ法律事務所はその典型です。そして,インターネット広告が利用されることによって単位会を超えて全国的に被害が拡散され,その対策の運用は不十分なままです。
また,隣接士業においては,日本司法書士連合会が2019年の定時総会において,家事事件と民事執行事件の代理権獲得を決議しました。また,同連合会の会長は,民事裁判手続のIT化について声明を発表し,民事裁判手続に広く関与する意向を示しています。さらに,2019年の行政書士法の改正において,第1条に「もって国民の権利利益の実現に資する」との文言が加えられたことにも留意する必要があります。
さらに,裁判手続きのIT化における本人訴訟におけるサポートに伴う非弁行為の懸念やAIを利用したオンライン上での紛争解決方法であるODRの問題などにも注視していく必要があります。
二弁では,数年前から非弁提携問題について倫理研修に項目を設け,広報においても注意喚起を行っています。しかし,非弁問題は急速な拡がりをみせており,広く会内に対する積極的な情報発信を行って注意を喚起し,また,他会との緊密な連携や日弁連による全国的な対策をとる必要があります。
これまでの弁護士に対する業務妨害は,坂本弁護士一家殺害事件に代表される粗暴犯型・実力犯型が中心でした。しかし,デジタル化の進展や弁護士の地位の変化に伴い,インターネット上での誹謗中傷や濫用的な懲戒請求など新たな業務妨害が発生し,妨害手段は多様化・巧妙化・陰湿化し,件数も飛躍的に増大しています。
弁護士は,基本的人権を擁護し,社会正義を実現するという使命を負っており,その使命は個別事件を通して実現されます。弁護士業務妨害はこのような弁護士の職責に対する妨害行為であり,妨害を受けた弁護士個人の問題ではなく,弁護士という職業に対する攻撃です。法の支配に対する挑戦であり,弁護士会が断固として対処すべき問題です。
二弁では,弁護士業務妨害対策委員会による相談支援や,研修,広報,新たな手口の調査・研究,会員向けマニュアルの作成,警察との意見交換等を行っていますが,弁護士業務妨害を未然に防止し,また被害にあった会員を手厚く支援すべく,さらに積極的な施策を行っていきます。
弁護士が社会的使命を果たし,法の支配の担い手としての役割を果たすためには,市民の弁護士に対する信頼が不可欠であり,また,市民の信頼なしに弁護士自治は成り立ちません。
弁護士の不祥事に関する弁護士会としての課題は,預かり金着服等の業務上の不祥事をいかに防ぐかが重要です。日弁連においては,2017年10月から依頼者見舞金制度の運用を開始していますが,不祥事を未然に防ぐ対策の強化が必要です。
そのためには,まず弁護士会への苦情等の情報提供の内容の精査や活用による早期の情報収集が必要です。また,預かり金を横領する事例に対しては,事務所経営のノウハウの提供の機会や情報交換の機会を増やすことも検討されるべきです。懲戒請求事件の速やかな対処や早期の情報提供の活用による被害の拡大の防止策の活用も重要です。
弁護士の業務の適正を確保するため弁護士がマネー・ローンダリングに関与するようなことがあってはなりません。しかし,激変する社会の中においてはマネロンの手口も巧妙化しており,弁護士によるマネロン対策も日々アップデートすることが社会的な要請となっています。二弁では,弁護士業務におけるマネロンのリスク分析を進め会員への情報提供に努めるとともに,会員が「依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程」の形式的な履行に拘泥することなく,実効性のある予防措置をとれるよう支援していきます。
また,マネロン対策に取り組む政府間組織であるFATFは,事業者の監督機関が適切な是正措置をとることを求めています。万が一にも弁護士会の対応が不十分であると判断された場合,監督体制の見直しを迫られ,さらには疑わしい取引の報告義務など弁護士の職の根幹に関わる制度の導入が議論されるおそれがあり(いわゆるゲートキーパー問題),弁護士自治にも深刻な悪影響を及ぼしかねません。私は事務次長時代,FATF対応を担当しており,その経験を活かし,二弁では,年次報告書の提出状況等をもとに,履行が不十分な会員に対する指導を徹底するとともに,次年度に公表される予定のFATFによる対日相互審査の結果を注視し,日弁連とも連携して,適切に対応していきます。
司法改革により,法科大学院を中核とした「プロセス」としての新しい法曹養成制度が構築されました。新たな法曹養成制度の下で教育を受けた多彩な弁護士が様々な分野で活躍する一方,司法試験合格率の低迷と司法修習終了後の厳しい就業状況が続き,法曹養成課程における経済的・時間的負担も要因となり,法曹志望者は減少しており,改めて法曹の役割や活動の魅力を広く発信することが必要です。
2019年6月,「法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立しました。この法改正により,いわゆる「3(法学部に法曹コースを新設し,優秀者について大学3年終了時に早期卒業を認める)+2(法科大学院の2年の既修者コースに進学)」の制度が創設され,2020年4月に学部2年生になった以降の学生を対象として大学(学部)入学後最短5年間で法科大学院を修了することが可能になりました。また,2023年から在学中に司法試験を受験することも可能になります。現在,私が関与している法科大学院でも新たな教育課程の検討が行われています。より多様な人材が法曹界に集まることや実務に即した臨床教育の充実が損なわれることのないように,今回の改革を引き続き注視していく必要があります。
司法修習生の修習期間中に給与又は修習給付金の支給を受けられなかった会員(新65期から70期までの約9700人)の経済的負担を軽減するため,日弁連は2019年3月1日開催の臨時総会において,上記の会員に20万円を給付する制度を創設して支給を開始しました。また,当会では,2019年1月開催の臨時総会において,上記の会員が納付した会館特別会費相当額を支援金として支給することとしました。後進が経済的にも安心して学べる環境を整備することは,法曹志望者を増やすためにも極めて重要であり,引き続き日弁連及び二弁でも検討を続けます。
日弁連は,2012年3月15日,「法曹人口政策に関する提言」を公表し,司法試験合格者数をまず1500人にまで減員し,更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要,問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべきであるとの意見を公表しました。その後,2015年6月政府の法曹養成制度改革推進会議は,司法試験合格者数について,毎年「1500人程度」としました。
日弁連は2016年3月11日の臨時総会において,合格者数をまず1500人にすべきである旨の決議を採択しましたが,2016年から2020年の司法試験では毎年1500人台の合格者数となっています。法曹人口問題(合格者数問題)については,会員の中には多様な意見があります。この問題に関しては,市民の司法アクセスの改善や弁護士の活動領域の拡大に取り組みつつ,法曹養成制度改革の帰趨及び法曹志望者の状況,弁護士の就職状況及び就業条件,今後の人口推移等も考慮した法的需要等も踏まえ,いかにして質を維持しながら社会のニーズに合った法曹を輩出するか,日弁連の「法曹人口検証本部」における検討を踏まえ,議論していきます。
二弁の魅力を広く法曹志望者(法科大学院生・司法修習生)や組織内弁護士等に発信し,多様な弁護士を二弁の会員にすることは,当会の人的基盤を確固たるものにするために重要な施策です。二弁では,新規会員獲得の方策等を検討する理事者会内に「二弁の未来PT」を発足させ,司法修習生向けの活動及び組織内弁護士向けの活動を行っています。その結果,令和元年度は一弁253名(前年度265名),二弁231名(前年度204名),東弁227名(前年度243名)となりました。もとよりどの弁護士会に入会するかは,会費の比較や所属事務所の意向などに拠りますが,二弁の魅力を発信していく活動を行うことは有益であり,今後もその発信に努めます。
二弁の会員数は6,000人を超え,60期以降の会員数は全体の約6割に達しています。また,所属弁護士100人以上の大規模事務所の会員数は1,000人を超え,企業内弁護士や官公庁に所属する会員数は650人を超えました。弁護士の多様化は,会員の各々が幅広い領域で弁護士法1条の使命を果たし,法の支配を貫徹する礎になります。同時に,万が一にも弁護士の内部的な分断や弁護士会への無関心に繋がることにならぬよう,会務に参加しやすい環境を整備しつつ,会員の多様な意見を丁寧に集約し,会務運営に適切に反映することが大切です。
女性会員がより働きやすく,また,会務に参加しやすい施策をさらに拡充します。若手会員に対しては,NIBEN若手フォーラムと連携しながら,対話と活動支援を行い,コロナ禍におけるクラス別研修等の充実を図ります。さらに,二弁とJILAは,2020年に他会に先駆けて,組織内弁護士の活動を通した法の支配の浸透及び弁護士自治の堅持を目的として連携協定を締結しており,その目的の達成のための具体的な方策を実行します。
企業統治の世界では,「リーマン・シスターズ仮説」と呼ばれる考え方があります。仮にリーマン・ブラザーズがリーマン・シスターズであり,女性の声がリーマン・ブラザーズの経営に反映されていれば,経営トップの暴走は防げたのではないか,つまり,経営を担う経営陣に女性を登用してダイバーシティ(多様性)を確保することにより,短期的な集団思考に陥るリスクが低下するのではないか,という仮説です。
弁護士会の活動を適正かつ活性化するためにも,性別を含むダイバーシティの観点が不可欠です。現在約6,000人の二弁の会員のうち,女性会員は約1,200名,100名以上の事務所に在籍する会員は約1,000名,インハウスの会員は約600名,そして60期以降のいわゆるロースクール世代は二弁会員全体のほぼ60%を占めています。このような多様な会員構成は二弁の活力の源泉であり,また魅力の一つです。
このように多様性ある会員の意見を的確に集約し,会務運営に反映していく必要があります。あらゆる世代,分野・領域で活躍する会員が二弁会員として意見表明がし易いようにする工夫が必要です。
2020年は「202030」の目標年でした。しかし,2020年12月に閣議決定された政府の「第5次男女共同参画基本計画」において,第2次計画からずっと掲げられてきた「指導的地位に占める女性の比率を2020年までに30%にする」という目標が「2020年代の可能な限り早期に」に後退しました。女性差別撤廃条約における女性の権利を担保するための仕組みを盛り込んだ条約議定書の批准は20年以上放置されています。国連の女性差別撤廃委員会が日本に対して勧告してきた選択的夫婦別姓制度は,驚くべきことに政府の「第5次男女共同参画基本計画」の原案からその文言が削除されるに至りました。女性活躍推進法が施行されましたが,罰則がなく実効性を伴っていません。世界経済フォーラムが発表したジェンダー・ギャップ指数が153か国中過去最低の121位になったのも,日本がいかに変化していないかを物語るものです。
二弁は,日弁連や全国の単位会に先駆けて2015年度より副会長についてクオータ制を導入するなど積極的に取り組んできました。その結果,毎年,若手女性弁護士のロールモデルとなる複数名の女性副会長を輩出しています。また,2017年3月に二弁総会で決議された「第三次男女共同参画基本計画」では,会の政策・方針決定過程への女性会員の参加の推進,IT化等による委員会活動の効率化及び活性化,メンター制の充実,ワーク・ライフ・バランスのための制度の新設や拡充(キャリア・プランやロールモデルの提示,男性会員の意識及び働き方改革,休業中の弁護士に対する研修受講支援,ファミリー・フレンドリー・アワードの継続,出産育児へのサポート,女性会員の業務分野拡大・開発),業務における性別や性的志向を理由とする差別の是正等について,これまでの取り組みの検証と今後の具体的な目標・アクションの提示がなされています。本年は,その達成度を検証するとともに,「第四次男女共同参画基本計画」の検討に入ります。
会務の効率化を図り,役職員及び会員のワーク・ライフ・バランスを推進すべきことは,弁護士会の最優先課題のひとつです。推進本部その他の関連委員会と連携を図り,コロナ感染拡大を契機に促進した委員会会議のデジタル化・ペーパーレス化・オンライン参加・会議の効率化をさらに促進し,第三次から第四次に向けて男女共同参画の実現に積極的に努めていきます。
2018年7月に設置された「NIBEN若手フォーラム」は,弁護士登録10年以内の弁護士会員の相互研鑽と親睦を図るとともに,会務や公益活動への参加を促すことを目的としており,「会務活動の入り口」として大きな役割を果たしています。
デジタル革命によるビッグデータとAIの利活用によって得られる成果物は,「第4次産業革命」とも呼ばれる社会変化をもたらしています。データの権利帰属やデータの利活用と保護のバランスなどをめぐる問題は契約に委ねられる部分が多く,また,ビッグデータを独占するプラットフォーマーに対する競争法からの規制は国際的にも大きな関心事となっています。加えてITを駆使して法律関連サービスを提供するリーガルテックの発達は,弁護士間の競争力にも影響を与える可能性があり,私たち弁護士がキャッチアップしなければならない知見は急速に拡がっています。そして,ここ数年,リーガルテックの市場が広がったことに伴い,自ら起業する若手弁護士が増えつつあり,その背景にはAIの発達による文書作成等の定型業務が減少することへの危機感を踏まえた潜在的な需要の開拓があるとも言われています。さらに,若手弁護士が法律事務所に所属しながら,企業に出向するケースも増えており,近年はスタートアップ企業への出向も増えつつあります(2018年でいわゆる五大事務所の所属弁護士合計(約2200人)の内,外部出向者はその約7%(165人)を占めています)。
このような深く大きな変化が着実に進む中,勤務弁護士として目の前の仕事に拘束されざるを得ない多くの若手弁護士には,事務所の外で同世代の弁護士と交流し,新しい知見を得て,知的な刺激を受ける機会が極めて重要です。「NIBEN若手フォーラム」において中心的な活動をしているメンバーはこれからの二弁を担う有為な弁護士たちであり,その輪を広げることは多くの若手会員にとって有意義な機会を与えることに繋がります。
また,2010年度に議論され,2011年度に立ち上げられた「はなさき記念館」は,新人弁護士に実費程度の負担で利用できる事務所スペースが提供され,多くの会員の協力を得て,入居した新人弁護士等に対するOJTの機会を与え,新人弁護士サポート事務所として,人材の輩出に寄与してきました。今般,高齢者・障がい者総合支援センター運営委員会の意見も踏まえ,はなさき記念館を廃止する方向で,令和2年度執行部において意見が取り纏められつつありますが,今後の経済情勢やコロナ感染拡大によって新人弁護士等に対する経済的支援を行う必要性が生じる可能性もありうるところであり,この点に関し,令和2年度執行部において準備を進めている早期独立弁護士等に対する経済的支援を引き続き検討します。
弁護士にとっての最大の敵は,孤独です。会務活動に無関心であったり,消極的であったりする若手会員に問題があるのではなく,会務活動の魅力を伝えてきれていない弁護士会サイドに問題があります。若手会員自身の手で,より多くの若手会員が二弁の会務活動に参加を可能にし,また,二弁と全国の弁護士会の若手の意見交換や交流もできるよう検討を進めます。
二弁では,2014年度から,登録1年目の全ての会員をクラス単位に振り分け,クラス別で研修を行っています。クラス別研修は弁護士として有用な実務上の知識やスキルを身に着けるだけでなく,司法修習での同期のつながりが希薄化している中で,担当弁護士や同期の弁護士との交流を促進するという効果も上げています。特に,登録3年目の倫理研修をクラス別研修と同じクラスで行うことで,クラス別研修終了後も担当弁護士や同期の弁護士と継続したつながりを保つ効果が期待できるようになりました。
今年度は,新型コロナウイルス感染拡大を防止するためZoomを利用したクラス別研修を行っており,これによりコロナ禍でのクラス別研修を継続することができましたが,他方で,担当弁護士や同期の弁護士との交流の機会が少なくなってしまいました。
そこで,コロナ禍におけるクラス別研修の目的を達成するため,Zoomによるクラス別研修を継続しつつ,研修方法やカリキュラムの内容にも工夫を凝らし,研修内容を充実するとともに,弁護士間のつながりを保てるように注力していきます。
大規模事務所の定義はありませんが,海外の大手法律事務所にとどまらず,大手国際監査法人系グループの法律業務参入との競争や法律業務にとどまらない幅広い総合的なリーガルニーズに対応している大手法律事務所は,常に競争力に磨きをかけ,事務所自体のガバナンスを整備している印象を受けます。私がその一端に触れたのは,日弁連の事務次長としてFATF対応を担当し,いくつかの大手事務所に赴き,その際にマネロン対応を含めた事務所のガバナンスが万全に整備されていることをヒアリングでお伺いしたときでした。
今,大手事務所では,たとえば,弁護士ではない企業出身者を招聘して意思決定への参画を求めたり,また外国弁護士をパートナーに昇格させる動きがあります。また,所属する若手弁護士がスタートアップする事業に投融資するVCを設立し,いわば所内ベンチャー事業に乗り出したり,また当該VCを通じて外部企業に出資する事務所もあります。
このような動きは今後の弁護士の活動の在り方を考える貴重なヒントになるものであり,また,大手弁護士事務所の若手弁護士の会務参加を促す契機ともすべく,大手事務所との意見交換の機会をつくり,支障のない範囲において広く会員にも共有していくことが望ましいと考えます。
日本組織内弁護士協会(JILA)によると,2020年6月現在,組織内弁護士の人数は全国で2629名,このうち二弁会員は654名であり,二弁会員全体に占める割合は1割を超えています。任期付公務員を含めた組織内弁護士は,法の支配を社会の隅々に浸透させるために重要な存在です。とりわけ経営もわかるCLO(最高法務責任者)の育成が急務とされる時代になり,リスク管理のノウハウの共有も必要です。今後も,企業をはじめ経済団体や関係官庁に対し,積極的な採用に向けた働きかけを行うとともに,組織内弁護士の会員への情報提供や研修の強化など,支援体制の整備に努める必要があります。
JILAは,本年に創設20周年を迎える約1400名の組織内弁護士を会員とする団体ですが,二弁とJILAは,2020年3月,全国の弁護士会に先駆けて,連携協定を締結しました。この協定は,組織内弁護士の活動を通した法の支配の浸透及び弁護士自治の堅持を目的として締結したものであり,組織内弁護士の意見を尊重しつつ,会の求心力を高める方策を協議し具体化して実行していきたいと思います。また,インハウスの倫理,副業,兼業,個人事件の受任の在り方について調査研究し,本年その研究成果が発表される予定であり,リーガルオペレーションやリーガルテックの調査研究にも着手しているとのことであり,いずれもその成果に注目し,共有を図りたいと思います。
政治と司法,民主主義と法の支配は,ときに衝突することがありますが,それは立憲主義が機能している証左です。具体的な事件を通して行われる裁判所による違憲審査の発動には,弁護士の創造的かつ鋭敏な人権感覚と人権を侵害された人に寄り添った行動力が必要です。弁護士会の立憲主義への深い理解と共感は,個々の弁護士の活動に必要不可欠です。憲法改正問題については,憲法が政治を統制する機能を果たし続けられるように,主権者である国民に対し,その課題や問題点をわかりやすく発信することが求められます。
コロナ感染拡大によって,「紙・FAX・対面」に拠る日本の民事訴訟手続の後進性が顕在化しました。法制審議会において議論が進む中,「e提出」「e事件管理」「e法廷」の段階的運用が急ピッチに順次実施されています。インターネットで書類を提出し,裁判記録や判決情報が電子化される時代は確実に迫ってきています。デジタル化社会への変化に対応できるように,会員への情報提供を適時に行い,デジタルディバイドの克服のための施策も講じます。
刑事弁護は憲法に規定された弁護士の責務であり,弁護士会も憲法や国際人権法に適合した刑事司法を実現することについて重い責任を負っています。「人質司法」と称される勾留・保釈の運用の改善,取調べの全過程の録音録画の全件拡大・取調べへの弁護人の立会いに向けた弁護実践と立法事実の収集,裁判員裁判研修の充実,開示証拠のデジタル化に向けた活動,不適切弁護への対応等刑事司法の諸課題の克服と刑事弁護の質の向上に取り組みます。
本年は,司法改革審議会意見書が出されてからちょうど20年になります。司法制度改革審議会会長を務めた佐藤幸治先生は,司法改革の目指したところについて,「立憲主義は,政治に対する法的統制を本質とするものであり,それ故に,司法・法律家の役割が大きいということも示唆してきました。法律家がこうした役割に応えていくためには,法律家がいわば『国民の社会生活上の医師』として,『プロフェッショナルな隣人』として,広く国民の法的生活を支えていくことが必要です。日本国憲法が司法権を著しく強化するにあたって,こうした法律家のあり方を当然に視野に入れていたはずであります。司法改革によって打ち出された様々な方策は,憲法の期待に本格的に応えようとするものであったと私は理解しております」と述べています(「世界史の中の日本国憲法」)。
私たちは,立憲主義の観点から弁護士に期待された役割を自覚し,実践する必要があります。
日本国憲法の立憲主義を堅持し恒久平和主義を尊重することは,基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士と弁護士会の責務です。
2018年5月の定期総会において,日弁連は,「憲法9条の改正議論に対し,立憲主義を堅持し,恒久平和主義の尊重を求める立場から課題ないしは問題を提起するとともに,憲法改正手続法の見直しを求める決議」を行い,憲法問題への取り組み方を示しました。弁護士会は,立憲主義を堅持し,恒久平和主義の尊重を求める立場から,国の将来を大きく左右する憲法の改正議論に当たり,憲法審査会の審議における議論状況を注意深く見守るとともに,市民の間で憲法改正の意味が十分に理解され,議論が深められるよう,その課題や問題をわかりやすく周知していく必要があります。弁護士が学校に赴き,憲法の理念についてやさしく丁寧に講義をする「弁護士憲法教室」などの知憲活動の取り組みも進めていきます。
また,2016年3月に施行された安保法制についても,二弁は日弁連と共に,立憲主義の理念に抵触するとする立場から,廃止に向けた取り組みを行っていきます。2014年から原則として毎月継続し,2019年に第4回関東弁護士会連合会賞を受賞した有楽町駅前の「憲法違反の安全保障法を廃止し,立憲主義の回復を求める街頭宣伝活動」を引き続き実施していきます。
立憲主義の堅持・尊重のためには,もとより憲法9条に関わる問題にとどまらず,幸福追求権,平等権,表現の自由や学問の自由,生存権などにかかわる事象に関心を持ち,弁護士会として提言をしていくことが必要です。選択的夫婦別姓制度,旧優生保護法による被害者の被害回復,無戸籍の方の人権保障,投票価値の平等の実現,ヘイトスピーチ問題,日本学術会議の会員任命拒否問題,そしてコロナ禍における生きる権利の確保など,弁護士会の取り組みが求められる課題は山積しています。
デジタル技術の飛躍的なイノベーションによって情報を大量かつ網羅的に収集し,AI技術によって容易に分析することが可能な時代になりました。もっとも,私たちの個人情報を守るために個人情報保護法が施行されていますが,公的機関による個人情報の収集・分析についての行政機関個人情報保護法による規制は不十分です。特に,公安・捜査機関による行き過ぎた個人情報の収集が看過されるとき,私たちの社会は監視国家と化します。エドワード・スノーデン氏が暴露したアメリカ政府による秘密裏の一般市民の通信データの収集と分析の実態は決して他人事ではありません。2017年の人権擁護大会において,デジタル技術が進む現代の監視社会では知る権利の拡大や権力監視の仕組みが必要であるとの決議が採択されましたが,国策としてデジタル化が進む中,万が一にも安心・安全な生活の名のもとに行き過ぎた監視やプライバシー侵害が認められてはなりません。
共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法の改正は2017年7月に施行され,これまで共謀罪が適用された事例はまだ1件もないと報じられています。しかし,共謀罪の存在を前提とした捜査が新たに行われている可能性は否定できません。改正当時,国連人権理事会特別報告者のジョセフ・ケナタッチ氏が指摘したとおり,プライバシー保護の観点から公安・捜査機関によるテロ対策などの監視活動が適切かどうかを事前に審査し,事後に監督する独立機関が必要であり,もとより共謀罪の廃止に向けた取り組みを継続していく必要があります。
公文書は立法・行政・司法のインフラであり,また,情報公開制度と公文書管理法制は車の両輪ともいえる関係にあります。そもそもあるべき公文書が保管されず,書き換えや廃棄がなされれば,正しい立法事実や歴史を踏まえた政策の立案や事後の検証が不可能になります。最近だけでも,森友・加計問題,南スーダン日報問題,裁量労働制不適切データ問題,そして桜を見る会の出席者名簿の問題など公文書管理の在り方が問われる事態を私たちは目の当たりにしてきました。民主主義の根幹にかかわる公文書が蔑ろにされている事態を踏まえ,厳格なルール化と独立の調査権限と判断権限を有する公文書管理庁の設置が求められるとともに,地方自治体レベルでは公文書管理条例の制定が求められます。
特定秘密保護法については,日弁連は,制定の前から,国民の知る権利やプライバシー侵害の恐れがあるとして反対し,制定後も廃止を求めつつ,その運用状況の監視をしています。施行からまもなく6年が経過しますが,問題が起きていないことをもって直ちに同法に問題がないと評価されるべきではありません。2020年6月に特定秘密の指定及び解除等に関する運用の基準の見直しが公表されました。引き続き法の廃止を求めながら,少なくともさらに5年後に予定されることになった運用基準の見直しにむけて,特定秘密の定義の曖昧さ,広範かつ過重な処罰規定などの改正,内部告発者保護規定の不備などの問題点の改善に努める必要があります。
紛争の迅速な解決には司法インフラのIT化が必要です。韓国では,既に2010年から裁判手続のIT化が開始され,シンガポールでは,法廷での弁論内容がAIで自動的に文字化される試行がなされています。
民事司法は,市民生活や経済活動と密接に関連し,利用しやすい民事司法制度は,市民の権利を擁護し法の支配を社会の隅々まで行きわたらせるためのインフラであり,利用者の目線に沿った利便性の向上が必要です。しかし,世界銀行の2019年のビジネス環境ランキングで,日本の司法の利便性は52位とされ,そのことは他国と比べ事件数が圧倒的に少ないことからも明らかでしたが,今般のコロナ感染拡大によって,現行の「紙・FAX・対面」に拠る「失われた15年」とも評される日本の民事訴訟手続の後進性が改めて可視化されました。
民事司法改革全体については,内閣官房におかれた関係府省庁連絡会議が,2020年3月に「民事司法制度改革の推進について」と題する報告書を取り纏め,民事裁判手続のIT化,知財司法の紛争解決機能の強化,国際仲裁の活性化などに加え,在留外国人の司法アクセスの確保,中小企業の海外展開支援,国際法務で活躍できる人材の育成などの民事司法制度の国際化に関する方策が盛り込まれ,今後の方向性と具体的政策が示されています。
とりわけIT化については,2018年3月の政府の有識者検討会による「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ」を踏まえ,2020年6月から法制審議会が開催されており,2021年2月に取り纏められる中間試案を注視する必要があります。また,「民事司法の在り方に関する法曹三者連絡協議会」における民事訴訟における情報・証拠収集制度の充実(専門訴訟への対応)に関する検討状況についても併せて注視する必要があります。
今回の改革は,法律家の枠にとどまらず,利用者を含む多方面からの意見や批判が契機となっており,また,上記のとおり,国際的動向を踏まえたものであることに留意する必要があります。「インターネットで書類を提出し,裁判記録や判決情報が電子化される」時代は確実に迫ってきています。「e提出」「e事件管理」「e法廷」について,2020年2月からフェーズ1(現行法下で実現可能なウェブ会議等の運用)が運用開始され,今後,フェーズ2(法改正によって直ちに実現可能な弁論等の運用),フェーズ3(法改正に加えてシステム構築等の整備を必要とするオンライン申立等の運用)も急ピッチに順次実施されています。二弁においても,これらの動きにキャッチアップできるように,会員への情報の提供等の対応を適切に行うとともに,デジタルディバイドの克服のための施策を講じていきます。
刑事弁護は憲法に規定された弁護士の責務であり,弁護士会も,憲法や国際人権法に適合した刑事司法を実現することについて,重い責任を負っています。我が国の刑事手続について,国際的な理解が得られるようにするためには,刑事手続の実体を憲法及び国際人権法に適合するものとし,憲法上の弁護人依頼権を実質化する必要があります。弁護士会がその責任を果たすためには,全国の現場で発生している問題事例等の情報を収集し,国民や国際社会に向けて日本の刑事司法の実情を示す情報を発信する機能を一層強化することが必要です。
取調べの全過程の録音・録画制度の創設をはじめとするいくつかの重要な改革が,いわゆる「村木事件」を契機とした2016年刑事訴訟法等改正により実現したことは間違いありません。しかし,現在もなお,憲法や国際人権法に適合しているとは言い難いのが日本の刑事司法の実情であり,多くの重い課題がなお積み残されています。その中でも「人質司法」と呼ばれる勾留保釈の運用と取調べは厳しい国際的批判を浴びています。電子監視制度については,2020年6月から開始された法制審議会刑事法(逃亡防止部会)において議論の俎上に上がり,日弁連は「人質司法」の害悪の大きさを考慮すれば,電子監視を身体拘束より制限的でない代替措置として位置づけたうえで,その制度のあり方を検討すべきであるとの意見書を発出しています。
「今日初めてグラブを着けた素人が,レフェリーもセコンドもいない状態でリングに上げられて,プロボクサーと戦わされるようなもの」。村木厚子さんは,取調べをこのように回顧して表現しました。取調べの録音・録画制度が施行されていますが,その対象は,裁判員制度対象事件と検察官独自捜査事件について身体拘束された被疑者の取調べに限定されており,刑事裁判全体の3%以下です。不適正な取調べを防止する必要のあるのがこれらの事件に限られず,また,在宅被疑者についても同様です。施行3年後の見直しに向けて,対象外事件の被疑者はもとより,在宅被疑者や共犯者等も含めた取調べ全件全過程の録画・録音を実現するために,対象拡大の立法事実となる事例を能動的に収集・分析することが必要です。また,2016年刑事訴訟法改正において,「新たな捜査手法」として,合意制度(司法取引制度)が導入されましたが,その立法過程では,同制度の施行後は,同制度に基づかない事実上の司法取引は違法となることが確認されました。しかし,合意制度の施行後も,事実上の司法取引が行われたことが疑われる事例が散見されます。取調べにおける違法な司法取引に基づく引込みによるえん罪を防止するためにも,取調べ録音・録画義務の対象を,在宅被疑者の取調べを含めて,拡大することが必要です。
憲法は,黙秘権及び弁護人選任権を保障しており,被疑者が最も援助を必要とする取調べの場面において弁護人の立会いを求めたとき,弁護人を立ち会わせるのでなければ,供述を求めることはできないことが導かれるはずです。諸外国では,取調べに弁護人を立ち会わせることができることは常識であり,弁護人の立会いを認めずに長時間取調べを行う日本の捜査実務は,国際的に厳しい批判を浴びています。この点,今般の法務・検察行政刷新会議において,検察庁が弁護人を取調べに立ち会わせないという方針決定をしておらず,立会いを認めるかどうかは担当検察官が適切に判断すべきものと法務省が理解していること等が改めて確認され,また,報告書においても,改正刑事訴訟法の3年後検討の場など適切な場において,弁護人立会いの是非も含めた刑事司法制度全体の在り方について,幅広い観点から適切な検討がなされること」を期待する旨が明記されました。取調べに弁護人を立ち会わせる権利の確立は喫緊の課題です。
裁判員裁判制度の施行から12年を迎えます。二弁においては,裁判員センターを設置して,主に60期以降の会員を中心に,裁判員裁判に関する研修の充実,裁判員裁判を担当する弁護人の名簿の整備,裁判員裁判対象事件の情報収集と弁護人への支援などに努めてきました。また,刑事弁護委員会では,刑事弁護全般に関わる研修を積極的に実施するとともに,全ての国選弁護事件について弁護活動の報告を求め,不適切な弁護活動に対しては国選割当停止などの処分を講じてきました。刑事弁護活動の質の向上に向けた二弁の先駆的な取り組みをさらに充実させていきたいと考えています。
政府は国家のデジタル化を推進する方針を表明していますが,刑事手続における「デジタル化」もその中に含まれています。証拠開示が広く認められることとなった現状を踏まえれば,被告人の防御の観点からも,開示証拠の謄写コストの負担は軽減されなければなりません。具体的には,たとえば,検察官が,証拠をPDF化し,弁護人が提出したポータブルHDDに格納して交付する等の運用の実現を図る必要があります。
「人権」「労働」「環境」。弁護士にとっては見慣れた言葉が今,SDGsやESG投資を通じて,世界のキーワードになりつつあります。これらの価値はイノベーションや持続可能な社会の実現に不可欠です。弁護士会がこれまで真摯に取り組んできた人権擁護活動は,多様性と包摂性のある社会を実現するために大きな役割を果たしてきましたが,今後もより一層の活動が求められます。
また,近年頻発している災害への対応と準備は,弁護士会自身の持続可能性のためにも重要です。被災地の支援を継続しながら,首都直下地震等の災害に備えて被災者支援策をさらに検討するとともに,弁護士会が災害時において事業・業務を継続するために,コロナ禍における弁護士会の業務運用も踏まえ,業務継続計画(BCP)の更なる見直し等に取り組みます。
私は,日弁連で長年にわたり人権擁護委員会に所属し,また日弁連の嘱託として,人権救済申立事件に数多く携わってきました。
人権救済申立事件の多くは,刑務所の中から処遇改善を求めるものであり,一つ一つは小さな申立であっても,それぞれに真摯な訴えがあり,私たち弁護士と弁護士会の使命として,できる限り迅速かつ丁寧に対応するよう努めてきました。
しかし,その事件処理は人権擁護委員会の委員の個人的な負担に大きく依拠せざるを得ず,その救済は必ずしも迅速に行われているとは言い難い実情にあります。二弁では,現在,弁護士嘱託3名体制にて委員とともに事件処理をしていますが,委員会と嘱託の相互協力体制がどのように採られているか,また,迅速かつ適切な措置が採られているかについて改めて検証し,必要な改善を図る必要があります。また,様々な新しい人権問題について調査・研究を深め,意見を広く社会に公表することも求められます。
私が担当副会長をしていた2010年度執行部において,二弁会員による人権擁護活動を支援するために「人権救済基金」を設立しました。その後,人権侵害事件の解決に携わっている会員に活用いただき,実績を残していることは大変嬉しい限りであり,引き続き必要な経済的支援を行い,人権侵害からの救済を図るために尽力している会員を支えていきます。
2020年7月に厚生労働省が発表した調査結果によれば,子ども(17歳以下)の貧困率は13.5%であり,約7人に1人,約260万人の子どもが貧困状態(2018年の貧困線である127万円に満たない生活状態)です。このうちシングルペアレントの世帯では約半数が貧困状態にあり,実際,母子世帯に対するアンケートでは「大変苦しい」が41.9%,「やや苦しい」が44.8%であり,その合計は86.7%にのぼっています。この数字はコロナ感染拡大前のアンケートであり,コロナ感染はさらに女性や子どもたち,そして日本に住む外国人などの生活を直撃し,想像を超える過酷な生活を強いています。
非正規雇用の拡大は不安定で低賃金の職業への固定化を促し,親世代の貧困は子どもに大きな影響を与え,世代間の貧困の連鎖に繋がっています。今ほど憲法25条にいう「健康で文化的な最低限度の生活」の保障がすべての人に行きわたることが必要なときはありません。しかし,貧困に苦しむ人たちにとって弁護士ははるかに遠い存在であり,私たちの力は弁護士を本当に必要とする人たちに届いていません。
弁護士の職務領域が拡大し,広告規制が緩和され,弁護士の存在が身近になった今日でも,市場原理の下では弁護士の力が届かない人たちがいます。私たちは霞が関や四谷に開設している法律相談窓口で待つだけでは権利を救済できないことを自覚しなければなりません。弁護士の力を必要とするあらゆる利用者,とりわけ私たちの目に見えない依頼者に弁護士の力を届けることが求められます。そのためには,弁護士からのアウトリーチと関係諸団体との連携が必要です。法律相談センター運営委員会や子どもの権利に関する委員会,高齢者障がい者総合支援センター運営委員会などの関連委員会の相互協力を行い,日々生きることが困難な状況にある人たちの権利を救済する体制を構築する必要があります。
労働法制がコンプライアンスの一部としてその遵守が重視されるようになりつつあります。また,2018年6月に成立した働き方改革関連法は,長時間労働の是正に向けた時間外労働の上限規制や勤務間インターバル制度の普及促進等が含まれています。
しかし,非正規雇用労働者が2000万人にものぼり,また,昨今の過労死事件からも明らかなとおり,働く人たちの権利や生命・健康が守られない労働問題は後を絶ちません。使用者側・労働者側のいずれに立つとしても,弁護士の職責は働く人たちの生命健康を護り,労働法が求める基準に照らして実態の是正・改善を図ることにあります。
労働法制に業務上の関心を持つ会員が増えつつあり,二弁の労働問題検討委員会の活動もフリーランス110番の実施や優れた書籍を発刊するなど活発に行われています。働く人の権利を護るために,また企業のコンプライアンス遵守のために,正規労働者と有期契約労働者の待遇格差の是非が争われた労働契約法旧20条をめぐる一連の最高裁判決やマッチングビジネスやプラットフォームビジネスの中で生起する雇用類似の働き方に関する法的問題,パワハラ防止指針の策定,公益通報者保護法の改正など,労働法制をめぐる最新の有益な情報を会員に提供することに努めます。
30年前,子どもたちのための重要な国際的な約束ができました。子どもの権利条約です。子どもが生きる権利,育つ権利,守られる権利,そして参加する権利。この30年間でその権利保障はどの程度進んだのでしょうか。
冒頭に述べたとおり,私は,弁護士登録をしてから10年余り,子どもの権利に関する委員会に所属し,いじめ,体罰,不登校,学校事故,子どもの虐待などの事件を多くの先生方とご一緒させていただき,子どもたちと一緒に考え悩みながら解決を図ってきました。また,少年事件にも多数携わり,今でも忘れられることができない事件がたくさんあります。
いじめについては,私が弁護士になって2年目,ちょうど日本が子どもの権利条約を批准した1994年に愛知県西尾市で中学生がいじめを苦にして命を絶つ痛ましい事件がありました。私は,二弁の子どもの悩み事相談では,一見すると小さないじめであると思われる相談であっても,すべて面談し,数十件の事件を受任し,子どもたちの辛さや悩みを共有し,子どもの主体性を尊重して励ましてきました。
その後,2012年にようやくいじめ防止対策推進法が施行されましたが,2019年に認知された小中高校におけるいじめの件数はこれまでで最多の61万件,いじめによる自殺者も約400名にものぼりました。とりわけ看過できないのは,命に関わる「重大事態」が増加している点です。いじめの認知自体が進んでいることは評価できますが,「重大事態」に至らぬ前の陰湿ないじめを早期に把握する必要があり,そのためにも二弁の相談窓口(キッズひまわりホットライン)や「いじめ防止授業」などがもっと活用されなければなりません。そして,そのためには積極的な広報が必要です。
少年法適用年齢に関する法制審議会の答申に基づく法改正については,再犯防止と子どもの成長発達の観点で有効に機能している現行法制を後退させるものであり,反対します。
答申は,当初の検討に比べ,家庭裁判所への全件送致が維持されることになったものの,①少年法が適用される「少年」であることが明確にされていないこと,②いわゆる「原則逆送」対象事件の範囲が様々な犯情の事件類型を含む短期1年以上の自由刑にまで拡大され,処遇選択が硬直的になること,③推知報道の禁止が一部でも許されてしまうこと,④行為責任で処分選択と処遇期間が制約され,ぐ犯については適用が排除されること,⑤刑事処分の場合の不定期刑や資格制限排除の特例が適用されないことなどから,従来の機能が大きく損なわれます。付添人の活動の中で非行少年の実像を最もよく知る弁護士の団体として,関係諸団体と連携しながら,社会の幅広い理解を得て立法に反対します。
「法律身近に 子どもに伝授」「いじめなど,身を守る助けに」という見出しの下,二弁の法教育の取り組みが日本経済新聞の夕刊の一面(2020年9月26日)を飾りました。
記事は,出前授業が定着しつつあるとして,二弁の小学校向けの「いじめ予防授業」を紹介し,授業で「いじめられるほうも悪いと思うか」と問いかけ,憲法で定められている「人権」や「良心」といった基本的な考え方を伝えていることを紹介しています。さらに,「自らが主権者であるという意識の育成に照準を合わせる例もある。第二東京弁護士会は,今年から高校生以上を対象にした模擬立法の取り組みを始めた。実際に社会にある課題について,多角的な側面からどうすべきかを検討し,参加者にルール作りをしてもらうという趣旨だ」と紹介したうえで,「討論から意見の集約,検討するという過程を1回限りでなく続けていくのが面白い」という参加した大学生の感想を紹介しています。
このように,二弁では,教育関係者と協力・連携を図りながら,上記の外,裁判傍聴,弁護士会に子どもたちを招いて実施する夏期ジュニアロースクール(対象は小学生~高校生)などの法教育活動を積極的に行っています。今後はオンラインによる法教育のコンテンツ配信も検討されるべきです。
民法改正により成人年齢が引き下げられることを踏まえ,主権者教育も重要になります。引き続き,立憲主義,表現の自由(少年法の実名報道やヘイトスピーチ),刑事司法など様々なテーマを取り上げ,法的リテラシーを高め,個人が尊重される自由で公正な民主主義社会の担い手の育成を図るため,二弁は法教育のトップランナーの弁護士会として法教育の充実を図ります。
高齢者・障がい者の権利擁護に弁護士が関わる場面は多岐にわたり,市民,自治体,福祉関係者,そして裁判所から求められる専門性は年々高まっています。
二弁はこれまでも様々な活動を行ってきましたが,弁護士の既成職務概念にとらわれることなく,弁護士ができること,やるべきことはもっとあるはずであるという視点から,さらに積極的なアプローチをしていくべきです。
成年後見の分野では,弁護士会が成年後見制度を支える重要な団体として社会の中で位置付けられていることを踏まえ,名簿制度の更なる拡充により,不祥事を防止するとともに,一人一人の依頼者のために引き続き真摯に取り組んでいくことが求められます。折しも成年後見制度利用促進法基本計画(5か年)が4年目を迎え,実務における運用の変化への対応が必要です。特に最高裁,厚生労働省,三士会(日弁連,リーガルサポートセンター,日本社会福祉士会)が共同で策定した意思決定支援ガイドラインの公表は,これまで財産管理,紛争対応に対応し,身上保護には消極的であった弁護士後見人に対し,大きな意識改革が求められます。
また,二弁は2017年に全国の弁護士会で初めてホームロイヤー制度を創設し,その先駆者として,これまでのゆとり~な財産管理の経験を生かし,ホームロイヤーの更なる質の向上と高まる需要に応えていきます。
障がい者の分野では,東京三会の中でいち早く立ち上げた精神科病院の退院請求当番制度の運用をより活発化します。また,従来から盲・ろう者法律相談,都立病院への出張相談等を通じて様々な障がいや病気をもった方へのサービス提供をしていますが,より幅広い団体,機関等にアクセスして,社会における弁護士の役割を拡充していきます。
主に高齢者を狙った悪徳商法はますます複雑化・巧妙化しており,加えて,デジタル化の進展に伴い消費者を取り巻く環境が大きく変化し,高齢者や若年者を含む全ての消費者が被害に遭うリスクが顕在化しています。最近では新型コロナウイルスの感染拡大に便乗した不審な勧誘やトラブルなども発生しています。消費者に関する制度については,近時,消費者契約法,公益通報者保護法の改正がなされ,また,特定商取引法,預託法改正の検討がなされる一方で,2022年4月に迫っている成人年齢の18歳への引下げに伴う若年者の保護や消費者問題の国際化への対応など,新たな課題も生じています。非弁提携の法律事務所が破産し弁護士業務自体から消費者被害も生じており,このような中で弁護士会には,さらに一層,消費者被害の防止と救済のための積極的な施策が求められています。
二弁では,法律相談センターや高齢者相談等で市民から個別の法律相談を受け付けており,新型コロナウイルスに関連しても法律相談等を行っています。また,行政向けサービスとして,消費者行政施策に関する助言・指導や消費者教育等のための講師派遣,情報交換等の連携を図っています。消費者被害に関する情報発信や研修・講演会等を開催し,さらには各機関との協議など消費者問題に対応するための諸施策を講じています。消費者関連立法についても活発に意見を発信しています。
消費者にとって安全,安心かつ公正な社会を目指し,かつ,被害に遭われた方々の被害回復を実現するために,さらに一層,積極的に施策を提言・実施していきます。
弁護士は,犯罪被害者の尊厳を守り,法的支援によって被害回復等に務めるとともに,被害者の声を立法や行政の施策に繋げる役割を担っています。
2004年に成立した犯罪被害者等基本法の下,さまざまな施策が講じられましたが,まだ十分とは言えません。国選被害者参加制度はできましたが,事件発生直後から国費による弁護士の法的支援を受けられる制度は実現していません。東京三弁護士会では,犯罪被害者を対象とした無料の電話相談及び面接相談を実施しており,東京地検及び警視庁とも連携して,弁護士による支援の仕組みを作っていますが,さらに被害者の支援に資するよう充実した研修等を実施して,多くの弁護士が被害者支援に取り組むよう弁護士会が支える必要があります。関係団体との連携を深めていく必要があります。
現在,全国的に犯罪被害者を支援する条例の制定が広がりつつありますが,都道府県でもその半数に至っていない状況にあります。2020年4月に東京都犯罪被害者等支援条例が施行されましたが,区市町村の大半ではまだ整備されていません。条例制定についても,弁護士会からの強い発信が求められます。性犯罪・性暴力の被害者のためのワンストップ支援センターにおける弁護士の役割も重要です。
東京地方検察庁,警視庁,法テラスその他民間支援団体等との連携をさらに深め,犯罪被害者を支える努力を継続していくことが必要と考えます。
死刑廃止については,日弁連においても長年議論がされ,2016年の人権擁護大会において,日弁連は「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し2019年には「死刑制度の廃止並びにこれに伴う代替刑の導入及び減刑手続制度の創設に関する基本方針」を採択しています。また,本年3月には国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)が日本で開催される予定です。
私は死刑事件の弁護人になったことはありません。死刑囚の方と直接向き合ったことがあるのは,人権救済申立事件を受けて,死刑囚としての処遇の問題を施設に勧告するため,東京拘置所にて事情聴取をしたときが唯一の体験です。他方,死刑事件の被害者のご遺族の代理人となり,メディア対応も含めた活動に長年にわたり関与し,今もご遺族と連絡を取り合っています。二弁に入会したときに新人弁護士研修で安田好弘弁護士のお話を聞く機会があったことを契機とし,その後,大谷恭子弁護士や同じ事務所に所属していた小川原優之弁護士,さらに,現在は特定非営利活動法人CrimeInfo(日本の死刑に関する統計資料等の情報提供を行い,日本の刑事司法制度に対する理解を高め,市民社会による諸問題への取り組みを促進している)の運営の中心を担っている田鎖麻衣子弁護士など,死刑事件に関わっている弁護士と知己を得,また,たとえば,堀川惠子さんなどの著作,私と同世代であったオウム事件の中川智正氏や広瀬健一氏に関する著作などを読みました。そして,死刑事件に再審開始が相次ぎ,私自身も裁判所の誤判を経験し,死刑事件においても誤判の可能性があることを身をもって知るに至り,さらに,死刑廃止の国際的潮流等をも踏まえるとき,死刑は廃止されるべきであり,弁護士会においても社会に対して死刑廃止を推進することの理解を求めるべきであるとの考えに立っています。もとより弁護士会において死刑廃止を推進することについては,会員や市民の理解を求めながら進めるべき課題です。また,私の限られた経験を踏まえても,犯罪被害者や遺族の方々への精神的・経済的な支援も含めた負担軽減に対する施策が必要不可欠であり,死刑を廃止した場合の代替刑の在り方についても十分に議論すべきです。
「誰よりも青い眼にしてください,と黒人の少女ピコーラは祈った。そうしたら,みんなが私を愛してくれるかもしれないから。」ノーベル賞作家トニ・モリスンの「青い眼がほしい」は,白人が定めた価値観を痛烈に問いただした作品です。BLM(ブラック・ライブズ・マター)は,アメリカにおける人種問題の根深さを改めて浮き彫りにしました。日本でも国籍を理由とした差別が厳然と存在しています。法務省が公表した外国人への差別に関する実態調査によれば,外国人であることを理由に入居を断られた人は約40%,就職を断られた人は約25%に上ります。ヘイトスピーチ問題は人々の心の中にある差別の意識が極端な形で現れたものですが,「嫌韓」「嫌中」の書籍が売れるという事実は重く心にのしかかります。
日本社会は,外国籍の人たちと共生・交流し,異文化を理解することが求められる時代になります。差別を心から追い出す出口に導くのは教育と啓発です。「子どもたちには,人種も階級も性的志向も関係なく,共通の未熟なティーンの色があるだけなのだ。」(「ぼくはイエローでホワイトで,ちょっとブルー」(ブレイディみかこ著))。グローバル化が進む中,国籍による差別が許されないというメッセージを子どもたちに伝えていくことも弁護士会の責務です。
二弁では,人権擁護委員会の部会が中心となり,ヘイトスピーチ解消法施行後の具体的な状況や2019年12月に成立した川崎市のヘイトスピーチの刑事罰を盛り込んだ条例の運用などを注視しながら,人種差別を禁止する法律の制定を求め,人種的差別がなくヘイトを根絶する社会の実現に向けた活動を続けていく必要があります。
この小題は,2018年に青森で開かれた人権大会のシンポジウムのテーマです。日本社会は外国人労働者なしでは成り立たなくなっています。在留外国人は300万人を超え,特別永住者を除く外国人労働者の数は100万人を優に超えています。外国人労働者のほとんどは単純労働者であり,それを担っているのは,本来労働力の受け入れとして位置付けられないはずの技能実習生(約40万人。内22万人がベトナム人)や資格外活動をしている留学生(約35万人)です。
1993年に始まった技能実習制度は,職場内訓練によって技能を移転し,習得した技能を母国に持ち帰ってもらうことが目的とされました。しかし,「国際貢献」の下での「技能習得」とは全くの名ばかりであり,単純労働力として扱われ,低賃金労働や長時間労働などの劣悪な労働環境による人権侵害や失踪が多発し,アメリカ国務省の「人身取引報告書」など国際的な批判も受けています。その根本的な問題は,多額の借金,転職の自由がないこと,権利主張をしたときの強制帰国の3点にあります。
そのような中,産業界からの人手不足解消の声を受けて,2019年4月から新たな在留資格として「特定技能」が設けられました。この制度は外国人を正式な労働者として受け入れる政策への転換を図ったものでしたが,その利用は進まず,むしろ技能実習生への需要が大きくなっています。人権侵害の構造が内在する技能実習は直ちに廃止し,併せて特定技能が利用されない原因である家族帯同を認めない扱いなどを変更し,ブローカーを完全に排除する方策を取るべきです。この点に関し,2015年に英国で成立した「現代奴隷法」において,企業に対してサプライチェーンでの奴隷労働を根絶する取り組みに関する情報開示を義務付けたことが示唆を与えてくれます。人権意識の徹底なくして外国人労働者やその家族との共生は成り立ちません。
性的志向や性自認は多様であることから,個人がいかなる性的指向や性自認を有するかは,個人の尊重と幸福追求権を規定した憲法13条により保障されており,性的志向や性自認を理由として異なる取扱いを行うことは,憲法14条が保障する法の下の平等に反するものです。しかしながら,性の多様性に関する社会の理解や認識は未だ不十分であり,性的少数者は,根強い偏見や差別により,社会生活の様々な場面で困難に直面しています。
二弁は,性的少数者が直面する困難は人権問題であると捉え,LGBTに関する研修会の開催,都内の学校への出張講義,2016年度関弁連定期大会における「性的少数者の基本的人権の擁護及び多様な性を尊重する社会の実現を目指す宣言」の提案などの活動を積極的に行っています。今後もより一層の啓発活動や相談体制の整備,法的サービスの拡充に向けて活動を継続していきます。
暴対法及び各都道府県における暴力団排除条例の施行を経て,暴力団の勢力は着実に弱体化しています。しかしながら,未だ全国で28,000人もの構成員・準構成員が存在し,2019年には全国で1,100件,警視庁管内だけで400件を超える中止命令が発出されており,現在も全国で抗争事件が発生しています。また,暴力団による民事介入暴力は減少しているとしても,覚せい剤,賭博といった資金獲得活動は,依然として暴力団の有力な資金源となっています。加えて近年は,詐欺犯罪による暴力団員の検挙件数が高止まりしており,暴力団は詐欺による資金獲得を常態化させています。また,暴力団が正常な社会活動を偽装しているケースも多くみられます。そのため,民事介入暴力対策は,相手方の属性にとらわれず,行為の実態に着目した対応が求められます。
他方で,青少年に対する暴排教育や再犯防止の観点からの暴力団離脱者に対する支援,さらに暴排条項によって取引除外された事業者の復帰に対する支援などの活動も重要です。
弁護士会としては,社会への啓蒙活動を継続し,暴力団による違法な収益活動の封じ込めを図るとともに,現実に発生した被害の被害回復に向けた活動を主体的に担っていくことが必要です。
日弁連は,いつでも,どこでも,誰にでも平等に法的サービスが受けられる社会の実現を目指して弁護士過疎・偏在対策を行い,二弁は単位会としては最も多くの弁護士を養成して弁護士過疎地域に送り出してきました。現在,全国に36か所のひまわり基金法律事務所が設置されており,日弁連からも二弁の都市型公設事務所である東京フロンティア基金法律事務所に対して赴任弁護士の養成が求められています。
東京フロンティア基金法律事務所は,2001年に公益事件の受任及び弁護士過疎地域に派遣する弁護士の育成を行う都市型公設事務所として設立された後,その事案の内容や性質又は社会的若しくは経済的理由等から弁護士による法的サービスを受けることが困難な事件を数多く受任してきました。他方で,東京フロンティア基金法律事務所の経営問題は深刻であり,所属弁護士及び公設事務所運営支援等委員会によって経営改善に努めてきましたが,上記のような受任事件の性質や法律相談センターの相談件数の減少などの影響により収入が減少し,二弁の経済的負担が増大しています。私は,東京フロンティア基金法律事務所が果たしている意義や役割を高く評価しつつも,二弁の経済的負担の大きさを踏まえれば,事務所の活動の在り方を検討し,また,その活動内容等の会員に対する透明性をさらに徹底する必要があると考えます。特に,これまでも市民がアクセスできる事務所としての役割を果たしてきたとしても,弁護士にその声が届かない又は届きにくい相談者に対しても積極的にアウトリーチする体制づくりが必要であり,そのためには様々な関係諸団体や法テラス東京法律事務所等と連携することが必要不可欠であると考えます。
令和2年度執行部において,「弁護士法人東京フロンティア基金法律事務所の在り方検討ワーキンググループ」が設置され,同ワーキンググループは,事務所の活動内容や収支の状況,赴任弁護士の養成の必要性や他の養成の方法,日弁連からの支援等を検討し,当会が経済的支援を継続することの是非等について検討を進めています。当該検討の結果を尊重しながら,東京フロンティア基金法律事務所の在り方を具体的に議論検討し,その活動内容等について会員に対する透明性の確保に努めます。
「あなたは私たちの未来を盗んでいる。」スウェーデンのグレタ・トゥンベリさんが,地球の気候変動について世界中の大人たちに向けて発したメッセージは,大きなインパクトを与えました。気候変動は快適な生活の裏返しであり,私たちは,経済合理性を一定程度犠牲にしていく覚悟を持ち,子どもたちに地球の良好な環境を引き継ぐために知見を集約していかなければなりません。地球上の生物多様性も大きな危機に直面しています。生物の絶滅に歯止めがかからず,人間社会にも影響が生じています。
気候変動への危機意識を踏まえ,環境問題は企業統治や成長戦略にも反映されつつあります。世界で環境対応を重視するESG(環境・社会・企業統治)投資が急拡大し,日本でも2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにするとされ,環境投資が成長戦略の柱に据えられました。また,生物多様性についても,2020年6月に経団連が保全に向けた行動指針をまとめ,企業活動がグローバル化する中,持続可能な社会を実現するために,生態系を考慮した活動が重要であるとの提言もされています。そして,国際社会も「カーボンゼロ」「グリーンリカバリー」に向けて大きくギアチェンジをしました。
二弁は,2009年度よりKES環境マネジメント・システムを導入し,持続可能な社会の形成に向けて,環境負荷の少ない組織体づくりに取り組んでいます。環境省が国内におけるSDGsの実現に向けた民間参画を推進し,すべての企業及び業界団体が持続的に発展するために策定したSDGs活用ガイド等を踏まえながら,今後も,環境保全委員会を中心として,個人や企業の意識と行動を変えるために,環境団体とも連携を図り,啓発活動など様々な活動を継続し,また人権救済基金を活用して要件を充たす環境訴訟を支援していくことも必要です。
グレタさんは国連で各国首脳を目の前にさらにこのように言いました。「もし裏切るなら,私はあなたたちを許さない。」と。“グレタ世代”に地球の環境を引き継いでいくために,私たちに残された時間の余裕はありません。
2011年3月に発生した東日本大震災及び福島第一原子力発電所事故から10年の節目を迎えます。この10年の間に,平成28年熊本地震(2016年4月)や大阪府北部地震(2018年6月),北海道胆振東部地震(2018年9月)等の大規模(かつ局地的)な地震が発生しているほか,近年では,平成29年7月九州北部豪雨や,平成30年7月豪雨(西日本豪雨),令和元年台風,令和2年7月豪雨のように,豪雨や台風による広域の大規模災害(風水害・土砂災害)が毎年発生しています。令和元年台風では,東京都下においても大きな被害が生じました。さらに,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延が長期にわたり続き,日本全国でコロナ禍による被災が継続しています。その最大の被災地が東京です。
このように,タイプも規模・被災地域も被害態様も異なる多様な災害が頻発しています。二弁は,これらの災害において,被災者支援・被災地支援に主体的かつ精力的に取り組んできました。東日本大震災及び福島第一原子力発電所事故に関しては,二弁独自の特色ある被災者支援活動を実施してきましたが,今なお賠償を受けられていない原発事故被害者の方々や避難を継続しておられる方々の支援を含め,必要とされる被災者・被害者支援活動を自治体や支援団体,他の専門家等と連携しながら継続していく必要があります。
また,二弁は,被災地弁護士会に対して速やかに義援金を送るだけでなく,熊本地震,西日本豪雨,令和元年台風及び令和2年7月豪雨において,各被災地弁護士会の無料電話相談に寄せられる被災者からの電話を着信転送により東京三弁護士会の会員が受け付けて対応する形での被災地支援を行いました。さらに,二弁は,東京都を被災地とする令和元年台風及びコロナ禍に関し,上記の活動により得てきた知見及び経験も活かし,速やかに災害対策本部を立ち上げ,市民・事業者の方々のために継続的な無料電話相談を実施する(コロナ禍に関してはオンラインによる無料面談相談も実施)とともに,災害時ADRの運営や被災ローン減免制度(「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」。2020年12月1日からコロナ禍にも適用開始されており,多重債務処理のメニューが1つ増えたことになり,会員に対する制度の周知と相談体制の整備が重要です)が円滑に運用されるための体制整備を行うなどして対応してきました。
このような取り組みの中で接する市民・事業者の方々の生の声を立法事実として集め,制度改善等の立法提言につなげることも二弁の重要な責務です。
二弁はこれまで専ら被災地支援を行っていましたが,令和元年台風により東京が初めて被災地となり,さらに,コロナ禍という弁護士会にとって経験のない災害が発生し,被災地弁護士会としての時宜を得た的確な対応を迫られる事態に至りました。
二弁は,東京都の市民・事業者の方々の支援及び被災地の支援を今後も継続していかなければなりません。同時に,将来起こり得る首都直下地震等の災害に備えて,適切な被災者支援策(医療・保健・福祉・経済・文化・学術・市民活動等との連携による「災害ケースマネージメント」までをも含む)をオール二弁で実践することができるよう,関連委員会がそれぞれの知見を結集させるための体制の構築や,災害時相談を担当可能な知識・技術を備えた弁護士の拡充その他の人的体制の充実についての検討に着手する必要があります。二弁は,その一環として,被災者支援の多くの経験及び知見を有する新潟県弁護士会との間で2017年9月に災害時共助協定を締結し,これまで連携活動を行ってきました。今後も,同協定に基づく同会との連携をさらに活性化させるとともに,他の同様の弁護士会とも災害発生の前後を問わず連携を図ることが検討されるべきです。
災害時に被災者支援策を実践するためには,弁護士・弁護士会が災害時においてもその事業・業務を継続することができるよう準備をしておくことが必要不可欠です。二弁は,2013年度から業務継続計画(BCP)を策定し,毎年度そのブラッシュアップを重ねるとともに,災害時に二弁の会員及び職員の安否を確認するシステムを構築して,2013年度から毎年3月11日頃に安否確認の訓練(テスト)を行っています。また,2014年度から毎年度,東京弁護士会・第一東京弁護士会と共に,裁判所,検察庁及び法テラスとの間で大規模災害時の各庁の対応に関する協議会を実施しており,大規模災害時における会員の業務継続に必要な各種情報を共有しています。併せて,会員に対し,法律事務所の防災体制やBCPについても有用な情報を提供しています。特に,コロナ禍を踏まえて,現執行部が策定した新たな感染症対応のBCP(「感染症まん延時対応業務継続計画」)の運用を踏まえ,これらの体制の更なる充実と適切な見直しを図ります。
さらに,被災者支援策の実践のためには,自治体や災害ボランティア・NPO,他職種・他士業と連携することも不可欠です。二弁は,「災害復興まちづくり支援機構」の正会員として,他の正会員である14の士業団体をはじめとする会員と共に,東京都とも連携しながら,災害時に備えた取り組みを行っていますが,今後,自治体や災害ボランティア・NPO,他職種・他士業との連携をより一層拡充及び深化させて,災害の発生に備えなければなりません。
二弁会員,そして二弁は,弁護士の社会的使命に基づく様々な魅力ある活動を行っています。良質なサービスや充実したコンテンツを利用者に提供するためには,その存在や価値を広く社会に認知してもらう必要があります。
二弁の活動を市民や企業・自治体等に積極的に広報することは,都会における司法アクセス障害の改善や弁護士の活動領域の拡大,さらには二弁会員及び二弁の社会的なプレゼンスの向上のために必要かつ重要です。また,魅力ある弁護士の姿を伝えることは,法曹志望者の増加のためにも欠かせません。そして,会員に役に立つ情報を確実かつタイムリーに届ける広報の実現も必要です。
いずれの場面でも広報室の果たす役割は大きく,ITを積極的に活用し,公報の更なる充実・強化に取り組みます。
二弁会員,そして二弁は,弁護士の社会的使命に基づく様々な魅力ある活動を行っています。しかし,良質なサービスを提供し,そして魅力あるコンテンツを創造しても,それらが広く社会に認知されなければ,法的サービスを必要とする利用者のために還元することができません。
二弁の活動を市民や企業・自治体等に積極的に広報することは,都会における司法アクセス障害の改善や弁護士の活動領域の拡大,さらには二弁会員及び二弁の社会的なプレゼンスの向上のためにも必要かつ重要です。また,弁護士会が提供する法律相談の分野では,関連委員会と広報室が連携して,たとえば,相談者が必要とする専門的分野における適切な弁護士にたどり着けるための工夫が求められます。さらに,任期付公務員やインハウスロイヤー,国際的な機関での活動など,弁護士の働き方・キャリアパスが多様になりつつあることを通じて,魅力ある弁護士の姿を伝えることは,法曹志望者の増加のためにも欠かすことができません。
そのために,二弁のサービスを発信し,利用者に届けるミッションを課せられた広報室の役割は極めて大きく,確実にその成果を出すことが求められます。2020年3月にリニューアルしたホームページやツイッター等の活用,委員会による広報活動(法律相談・法教育の専用ホームページ・仲裁センターによるフェイスブックの活用・子どものためのLINE相談・災害対応など)と広報室との連携,パンフレットのリニューアルなど様々な施策を進めます。もとよりその施策は,送り手である弁護士の目線ではなく,ユーザー目線からわかりやすく親しみやすい内容にする工夫が必要です。
近年の会員数が急速に増加し,特に若手会員について,弁護士会の活動への参加が少ない会員,他の弁護士とのつながりが少ない会員が増えています。他方で,IT化の進展に伴い,高齢会員に対する情報提供の重要性が大きくなりつつあります。さらに,インハウスローヤーの増加は,これまでの会員と弁護士会との関係の在り方を見直す契機として捉えるべきです。このような状況の変化に的確に応えるためにも,会員への様々なサポートの周知,研修やQOL向上のための情報提供,キャリアパスなどの参考情報の提供など,会員に役に立つ情報をその必要とする会員に確実かつタイムリーに届ける広報の実現が必要であり,この場面でも広報室の果たす役割は大きいというべきです。
そのために,会員サービスサイトの改善(ユーザーインターフェース改善・スマホ対応),スマホアプリ「miNiben」の活用などITを積極的に活用しながら,情報提供・情報伝達の確立に取り組みます。また,会報誌「NibenFrontier」は二弁内外で高く評価されていますが,その内容をさらに充実し,会員向けに有用な情報の提供に努めます。
弁護士会多摩支部は,420万人を超える多摩地域の市民のために法律相談事業や国選事件への対応を行っています。
多摩地域の司法サービスがより充実するよう,本会と多摩支部との自由闊達な対話を大切にし,弁護士会多摩支部の本会化に向けた取り組みを継続しつつ,市民に役立つ実績を着実に積み上げていきます。
弁護士会多摩支部は2018年に設立20周年を迎え,420万人を超える多摩地域の市民のために立川,八王子,町田の法律相談センターにて合計年3000件の法律相談を受け,国選弁護事件や支部における弁護修習にも対応しています。また,多摩地域の支部活動を多摩地域の弁護士が責任をもって担うため,会員資格を多摩地域に事務所を有する弁護士に限定されました。
今後は,多摩地域に事務所がありながら任意加入のため未加入のままとなっている弁護士に全員加入いただくよう推進する必要があり,また,本会の支援を受けている刑事事件や後見事件の受任体制の改善も必要です。さらに,多摩支部では若手会員も増えており,多くの若手会員に自律的な支部運営に関与いただくために,支部の若手WGを中心に魅力ある研修や企画を実施していく必要があります。
本会においても,多摩支部との自由闊達な意見交換を図り,多摩支部で行われているアウトリーチを含む法律相談がより充実するよう支援するとともに,支部会員から要望の強い支部における各種証明書の発行,支部図書室と本会図書館の連携等について検討します。
弁護士会多摩支部の本会化に向けた取り組みを継続しつつ,市民に役立つ実績を積み上げていきます
委員会等は弁護士会活動の中心であり,その活性化を図ることは弁護士自治を堅持し,弁護士会への求心力を高めるために必要かつ重要です。
2019年度に委員会のリモート参加が弁護士会の公益活動と認められ,2020年度は新型コロナウイルス対応としてリモート参加が普及し,育児や業務上の理由等により弁護士会館に来館しにくい会員の委員会参加等が大きく推進されました。今後も,リモートアクセス環境の一層の整備に努めます。
また,2018年10月にリリースされた会員専用アプリ「miNiBen」は,委員会や研修の出席管理を容易にし,商事法務の有償コンテンツの無償提供や委任契約書作成支援ツールなど機能を拡大しています。
引き続き会員の意見を聴きながら,弁護士会活動へのアクセスをさらに改善し,業務拡張ツール等を充実させ,全会員に普及させることを目指します。
弁護士費用保険(権利保護保険)は,2019年の取扱件数は4万件を超え,日弁連と協定を締結する保険会社等は2020年9月末時点で20社になり,対象商品も多様化しています。
権利行使促進の三要素は,権利に関する情報が行き渡ること,アクセスが容易であること,結果が出ることであると言われます。弁護士費用保険はすべての人々に平等なアクセスを提供する手段であり,今後も更なる拡充と円滑な運用を図る必要があります。
日弁連LACは昨年20周年を迎えましたが,報酬等の紛争については弁護士費用保険ADRによる早期適正な解決を図るとともに,当会としても,引き続き利用者と保険会社の信頼を維持・向上することが不可欠であり,名簿登載者のスキル向上のための分野別の研修や事件報告の徹底を図る必要があります。
二弁仲裁センターは,昨年,設立30周年を迎えました。代理人申立ての促進が何より重要であり,実例を踏まえた二弁仲裁のメリットを会員向けに広報するとともに,本人申立ての利用増を目指して既に始めているFacebookや漫画を利用した市民向けの広報に引き続き注力します。
金融庁と東京証券取引所は,2021年3月に改定されるコーポレートガバナンス・コードにおいて,現行では2名以上とされている独立した社外人材について,全体の3分の1以上にするよう求める指針を示しました。政府は2013年に成長戦略で社外役員を重要課題と位置付け,今後も企業統治の強化に向けて,役割の発揮が期待されており,その方向性は尊重されるべきです。
しかし,現在,独立社外役員の占める割合が3分の1未満の企業が東証1部上場でも約40%(約800社)を占めており,少なくとも800名以上の増員が必要になります。もっとも,現在,社外役員のなり手が不足しており,一人が複数の企業の社外役員を兼任するケースも散見され,チェック機能の観点から問題になっています。
このように,今後適切な人材供給が重要な課題になることに加え,コーポレートガバナンスにおいてサステナビリティや人権を重視する流れの中で,日本政府も2020年10月に「ビジネスと人権」の行動計画を策定し,企業経営における人権尊重の重要性が高まりつつあります。
このような期待に応えられる独立社外役員の担い手こそ弁護士に他なりません。二弁では,社外役員就任を希望する会員の名簿を二弁ホームページ上に公開し,会員の役員登用への機会の拡充を図っています。今後は,単に名簿を公開するにとどまらず,女性会員の候補者の充実,名簿の登載要件の見直しや積極的な広報を行う必要があります。
中央省庁や地方自治体等の公的機関において,任期付公務員として活躍する弁護士が増加しています。中央省庁においては,要件事実に沿った争点整理を行う国税審判官や個人情報保護制度等における特定分野における政策の立案など多様な業務に従事しています。また,地方自治体においては,債権回収,訴訟対応,法律相談,条例等の例規の制定・改正業務のみならず,近年問題となっているクレーム対応においても,弁護士業務の経験を生かした活躍がみられます。
二弁では,毎年,二弁会員に任期付公務員という活躍の場があることを認識していただくために,任期付公務員経験者による座談会を実施しています。こうした会員に対する情報提供を今後も積極的に進めていきます。
また,二弁では,自治体向けサービス窓口を設置し,各種自治体法務支援,法律相談受託,委員・講師派遣,福祉分野の支援,条例制定支援,債権管理支援,弁護士任用支援について,各種法的サービスを提供しています。地方自治体に対しても,弁護士の活用方法として二弁の取り組みを積極的に周知していきます。
2020年12月現在,36名の弁護士が国会議員であり,うち二弁会員は5名です。また,立法分野では,地方自治体議員,政策担当秘書,議院法制局職員等,多くの弁護士が活躍しています。日本弁護士政治連盟と連携し,会員の立法分野への進出を支援していきます。
また,地域課題の解決のためには,地方自治体において活躍している弁護士との情報共有や意見交換が不可欠です。同政治連盟東京本部や,歴代委員長を二弁が輩出している同政治連盟企画委員会等と情報共有し,また,地方自治体議員と特に若手会員との交流の機会を持ち,立法活動を担う弁護士の魅力の発信をしていきます。
二弁では,2014年度より,ベテラン弁護士の事務所承継支援の一環として,若手弁護士とのマッチングを手助けする「協力弁護士推薦サービス」のパイロット事業を実施しています。このサービスは,事務所承継のニーズに応えるとともに,事務所承継に至らないとしても,ベテラン弁護士が得意でない分野の仕事や体力的・時間的な問題から受任しきれない仕事を補助してくれる若手弁護士を探したいというニーズにも対応するものです。
ベテラン弁護士の会員にターゲットを絞ったうえで,そのニーズを引き出し,またその具体的な実績を周知するための広報の工夫により,事業の活性化を図ります。
二弁では,国際委員会を中心に,台北律師公會等と相互の弁護士を紹介する制度を立ち上げるなど,二弁の弁護士が海外においても法的支援ができる環境を整えてきました。また,対日インバウンド投資や対外進出の支援については,JETROとの共催による公開セミナーや入管・在留手続に関する研修会を実施するなど,国際業務に関する実務的研鑽の機会を提供しています。かかる制度や研修が有効に機能し実際に海外関係の案件での支援を実施することができるよう,今後も支援していきます。また,ソウル弁護士会,シンガポール弁護士会やパリ弁護士会等,既に友好協定を締結している海外の弁護士会とも交流や情報交換を深め,支援態勢の更なる拡大を図ることも視野に入れて,セミナーや人材育成・交流などにより二弁の弁護士へのフィードバックを図ります。
日本企業のグローバル化に伴い,企業が国際的なトラブルに巻き込まれるケースが増えています。国ごとに制度が異なる裁判とは異なり,非公開,一審性で早期解決が図れる,条約に基づき世界150国に効力が及ぶ,準拠法・仲裁地・仲裁人・言語を戦略的に選択できるなどの利点がある国際仲裁へのニーズが高まっています。国際仲裁は国際的な事案を取り扱う弁護士のみが関わるものではなく,たとえば,契約書においてどのような仲裁合意条項を盛り込むか否かの判断はドメスティックな業務を扱う弁護士にとっても重要なチェックポイントです。
国際仲裁は人的・物的な産業インフラ・司法インフラの重要な制度であり,仲裁地として企業に日本を活用してもらうことにより日本の国際的プレゼンスを高めるとともに,企業にとっても日本が仲裁地になれば契約の準拠法も日本法になる可能性が高くなり,紛争解決の予測可能性を高めます。2020年3月に東京・虎ノ門に国際仲裁・ADR専用審問施設が開設されました。これによって,本来はホームで試合ができるはずなのに,国内に専用スタジアムがないという理由でアウェーでの国際試合を余儀なくされるという事態が回避できることになりました。
グローバル化の中で利用しやすく頼りがいのある司法を実現するために,弁護士会は国際民事紛争の解決力を高める責任を負っています。二弁においても,東京を国際仲裁のハブとすべく,国際仲裁の利点等を情報発信し,国際仲裁分野の人材育成に取り組む必要があります。
二弁は,会員数全国第2位の弁護士会であり,日弁連や関東弁護士会連合会の活動に寄与すべきことはいうまでもありません。これまでも多分野の委員会等で多くの会員が活躍してきましたが,引き続き日弁連での活躍が期待される会員を推薦し,各連合会の活動の活性化のために貢献します。
また,東京弁護士会及び第一東京弁護士会とは,東京地家裁判所,東京地方検察庁をはじめとする関係諸機関との関係の維持発展のため,引き続き緊密に意思疎通を図り,相互に連携していきます。
二弁は,全国第2位の規模を誇る単位会として,会員や市民のために複雑かつ多岐にわたる会務を取り扱っており,会務を円滑かつ確実に進めるために,事務局及び嘱託弁護士の活躍と協力が不可欠です。
二弁は,2021年1月現在,正職員57名,嘱託職員15名,パート・アルバイト・派遣職員14名の事務局職員と38名の嘱託弁護士が活躍しています。また,2020年度には,13年振りに弁護士が事務局長に就任しました。事務局及び嘱託弁護士がパフォーマンスを十分に発揮するためには,人材の適正な配置と職務内容の一層の合理化を推進し,快適な職場環境を形成する必要があります。
事務局については,2020年度にテレワーク体制が構築され,働き方や職場環境に大きな変化が生じました。新型コロナウイルスの影響により,理事者とのコミュニケーションの方法にも工夫が求められる中で,事務局職員の業務の執行状況を正確に把握し,適切な人材配置とDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進による業務の効率化・合理化を図り,新型コロナウイルスの再流行を含む災害対応の検討を進め,明るく楽しい職場づくりを目指し,快適な職場環境を形成したいと思います。
嘱託弁護士については,公平性に配慮して広く会員の中から選任するよう公募を原則とした上,嘱託弁護士と理事者との意見交換会など既存の方法に加えて日常的な活動における情報交換の機会を増やし,嘱託弁護士の職務状況及び対処すべき課題の把握と適切な職務執行を目指したいと思います。
1970年に「講座 現代の弁護士」(全4巻)が,二弁の石井成一,大野正男,古賀正義,釘澤一郎の各弁護士の編集により出版され,また,2000年に「21世紀弁護士論」が日弁連の編集により出版されてから昨年それぞれ50年,20年が経過しました。
「21世紀弁護士論」所収の「21世紀への招待」と題された論文では,二弁の吉川精一・川端和治両弁護士が,21世紀の弁護士像と21世紀の弁護士会の役割と課題を取り上げて鋭く論じています。その中で,たとえば,吉川弁護士は,21世紀の弁護士が直面する問題として,「弁護士の産業化」と「弁護士という職業のアイデンティティの喪失の危険」の2点を指摘しています。そして,吉川弁護士は,「私は,産業化と弁護士のアイデンティティの問題は弁護士とは何か,弁護士という職業の存在理由は何かという根本問題に行きつく問題であると考えている」と述べたうえで,「弁護士という職業が制度的に存在している理由は,各弁護士に経済的理由を追求させるためではなく,弁護士が司法制度の一翼を担い,社会・公共の期待に応える役割を果たしているからである」,「21世紀には日本の弁護士もこのような根本問題と対峙せざるをえなくなるかも知れないが,私は,われわれが今後生ずる弁護士のアイデンティティ・クライシスの傾向に適切に対応することによって右のような問題が生じないような不断の努力を怠るべきでないと思う。」と述べています。
これからも私たちの自治を守り,国家権力や企業に対して正義を実現していくためには,私たち弁護士が,依頼者の利益を守り,社会・公共の期待に応える役割を果たしているか,自らを厳しく見つめ直す必要があります。将来の弁護士会を担う若手の弁護士とともに,弁護士会の職責と自律的な運営を負託されていることの重みを共有し,不断の努力を尽くしていく所存です。
以 上